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ないものねだり(オリジナル)(異世界ファンタジー)

ライは人たらしだ。
明日は闘技場で敵になるかもしれないキメラに、恐れも気後れもなく、話しかけにいく。
瞳をキラキラさせて。
「あの、その3つの頭って、視界はどうなってるんですか?身体の主導権とか混乱しません?」
キメラとしての弱点を知られるわけにはいかないので、だいたい皆無視するのだが。
「ご飯はどなたの口から?喧嘩になったりしないんですか?脳が別なら兄弟と常に一緒にいる感じですかね?良いなぁ。私にも複数頭をつけられないかなぁ」
などと、怖い事を平気で言う。
怖いのは、こっちを見て言うからである。
私とレッジの首を取ってつける想像をしている。
本人は至って本気である。たぶん。
やめていただきたい。
そんな不穏な空気に気圧されて、
「そんなに便利なもんでもないぞ」
「ご飯はそれぞれ。手が一対だから歯磨きも大変」
「頭より手が複数ある方が良いよな」
三ツ首が、つい、と言ったふうに話し出す。
ライは楽しそうに話を聞き、寄り添い、雑談しながら、敵である彼らの特性にあった上手い戦闘方法を考えて助言してあげたりするのであった。

キメラは基本異形だ。
生理的に嫌悪感を抱く見た目の者もいる。
それでなぜ生きていられるのかという姿もある。
コンプレックスから怒りの塊となっている彼らにも、ライは無邪気に突撃し、懐柔してしまう。
「絶対皆が恐怖する姿なんて、戦闘時に仲間だったら心強くてしょうがないじゃないですか。格好良いなぁ」
うっとりしながら、そんな事を言う。
「私もそんな風になれるかなぁ」
ライは大変見目麗しい青年だ。
なので「格好良い」が嫌味にしか聞こえない。
しかし、彼にとっては本心で。
ここで止めないと、本当にグシャグシャにされて喜びかねない。
リンクはキメラから遠ざけるために、ライの首元をぐいと引いた。
「ぐぇ、リンク、く、苦しい」
「阿呆か貴様。普通、一般的に、お前の方が羨ましい容姿してるからな?!嫌味にしか聞こえないからな!」
「え、絶対彼の方が格好良いですよ!!ん?私、容姿良いですか?」
ライの美醜感覚は一般からかけ離れているようだった。
リンクは呆れる。
「むしろ容姿しかないだろ」
「ありがとうございます」
何でお礼。
しかも、ちょっと寂しそう。
ライは異形のキメラ達を見回して、愛おしそうに、
「結局、ないものねだりなんですよね…自分が持っていないから。羨ましくて仕方ないんです」
と呟いた。
まぁ確かに、と、リンクは納得する。
強さという意味では、彼には何もなさそうだったので。
「ライは結局、どうなりたいんだ?」
「そうですね…とにかく強くて、皆様のお役に立てる人になりたいです」
「ホント…ないものねだり…」
「あ、ひどいリンク。叶わないって思ってますね?」
「うん。まぁ、頑張れ。…筋トレするか?」
「します!」
喜びに顔を輝かせたライであったが、リンクが普段使いしている斧を微塵も持ち上げられず、筋トレは即終了したのであった。

3/26/2026, 12:59:28 PM