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「梨と林檎って似てない?」
「どこが?見た目は分かるけど、味は違う。」
「ほぼ同一個体じゃん、どっちかが突然変異で生まれた産物だよ。」
「その場合どっちになるんだよ。禁断の果実が梨になってた可能性もあるって事かよ。」
「そうだね、アダムとエヴァは梨を食べて追放された事になる。この家では、禁断の果実だけど。」
「どういうことだ。」
「これを食べたら呪われるって考えてる、二つの意味で旧套墨守だね。だからこっそり、持ってきてるんだけどね!」
高そうな木製の机に足を乗っけているそいつは、ガラスの器に乗っけられた梨と林檎をじっと見つめる。普段の学校じゃ、見れない。幼馴染である自分だけの特権。
「とりあえずどっち食う?梨?林檎?切ってくる。」
「どうしようかn…ごめん。そろそろ終わりの時間だって、また夏休み明け、学校でね。」
「そっか、じゃあな。」
俺はそいつの親を見ずに渋々帰った、これがさいごに交わした会話だってことも知らずに。今頃、晦渋…難しい文章でも読まされて、問題を解かされてるのだろう。暑い、早く家に帰って涼しい部屋でイベランしよう。

 あれ以来、連絡がない。勇気出して連絡先を交換したが、履歴の最新は数十年前のまま。まだ、話したい事がたくさんあったのに。…好きって、いえてない。未練タラタラかよ、こんな歳になって。
実家を出てノスタルジックな風景を歩いていくと、蔦が生い茂る白い家に着く。昔からこんなだ、両親の趣味だって話も全て思い出せる。インターホンを押して高そうなドアを叩く。
しばらくしても返事がない、留守なのだろう。仕方なく帰ろうとすると、恰幅の良い釣り帰りを伺わせるおじさんが話しかける。
「そこの家族なら、もういないぞ。」
「どういう事だ?」
「知らんのか?なんか、数十年前のこの時期だったか?親が子供を躾けた勢いで殺そうとしたみたいでな。その時反抗した子供が、ガラスの器で親を殺してな。どっちも死んだってわけだ。」
「…どうしてそこまで詳しいんだ。」
「事情聴取されたんだよ、そん時に小耳に挟んだ。知り合いか?」
「まぁ、知り合いでした。」
「そっか、残念な事だ。墓の場所、教えようか?」
「いや、大丈夫です。」
足早にその場から去った、暑さに体力を奪われながら実家に戻る。もし、あの時、禁断の果実である梨を食べさせて、あいつが追放されてたら。いや、無理やりにでも自分が連れ去ったら。なんて考えても
「意味なしってか。」

10/14/2025, 1:35:19 PM