「幸せに」
好きな人が出来た。
自分よりひとつ上の先輩。最初はイケメンだな、くらいだった。でも関わっていくにつれて惹かれていった、悩み事があると気づいて気にかけてくれたり、些細なことでも褒めてくれたりする、自分でも優しくされるだけで好きになるなんでちょろすぎると思ってる。でも気付けば先輩が視線の真ん中に居て、呼吸、仕草、視線、全てを監視するように見てしまう。自分でも、あの人のことずっと見ていたことに気がついた時はびっくりした。自分は先輩の事をよく視線で追うようになった。
出会って1年が経っていた。皆問題なく進級し、あの人は受験生。1年間が過ぎたが、自分の先輩が好きな心は変わっていない。方を組む、ちょけてつついてくる、先輩からすると何気ない友達へのボディタッチだけど、自分はそんな事で心臓が張り裂けそうになる度に、自分は先輩が好きなんだ、と実感する。こんなに好きなのに、いつまで経っても告白できない、振られたら気まずくなってしまう、緊張していざ伝えようとしても声が出ない、それもあるけど1番は、自分も先輩も男だから。絶対気持ち悪がられる、嫌がられて拒絶されたらどうしよう、嫌われて避けられたらどうしよう。告白しようと考える度に嫌な妄想が湧いてきて堪らなく自分の体を恨む。そんな考えの隣に、でも伝えないと先輩は卒業して今より遠くに行ってしまう、せめて伝えたい、という気持ちがある。
気付けば夏休みに入っていた、部活帰りにジリジリと太陽が照りつける公園でいつも通り先輩と雑談する。今なら言えるんじゃないか?ただ一言、好きと言うだけ、すごく簡単なこと、言いたい。声を出そうとすると喉がきゅっと締まる、最悪な結末が頭によぎり冷や汗が吹き出す。先輩に気持ちを伝えたい、でも嫌われたくない。手首をつねりながら頭の中で自分を安心させる言葉をかける。大丈夫。大丈夫。大丈夫。水を一口飲んで口を開いた。
自分でも酷い告白だったと思う。声は緊張で裏返ってたし、目線ぐるぐると泳いでいた、血の気が引いてきっと酷い顔をしていたと思う。突拍子もなく、急に好きだと言ったからか先輩は驚いた顔をしていた。俺の様子からふざけていた訳でも、友愛でも無いと分かったらしい。結論から言うと、返答は無かった。先輩は、気持ちは嬉しいけど、受験が控えていてそっちに専念したい、でも後輩としても友達としても大切に思っているからしっかり考えてたい。との事、しばらく夢のよう感覚だった、拒絶されなくて良かったと言う安心と、大切な時期に自分の身勝手で邪魔するようなことをしてしまった、という自己嫌悪で感情がぐちゃぐちゃだ。
瞬きをする間に1年が終わって先輩が卒業した。無事第1志望に受かったらしい。春休みに入っても先輩からの返事は無かったが、新生活が始まる直前でバタバタしているだろうし、特に連絡もせず時が過ぎた。気が付けば夏休み。先輩にした告白を思い出し返答はいつ来るんだろう、と頭の中でぼんやり考える。1年前に雑談してから一度も動いていないトーク画面を眺める。忘れられているのだろうか、それとも最初から返事をする気は無かったのだろうか、そんな嫌なことを考えてしまう。そんな事を考えているうちに夏休みも終わりが近づき、二学期に。
時間のながれは早いもので体育祭がおわり、文化祭が終わり、修学旅行が終わり、受験が終わり、卒業式が終わり、気が付けば大学生。先輩から返事が来ることも、連絡が来ることもなかった。酷く虚しい気持ちになった、忘れられているんだ、馬鹿みたいに返事を待っていたのに。確かに今思えば優しかったけどいい人ではなかった。八方美人だし、ナルシストだし、無自覚ノンデリで、先輩からの無神経な言葉で傷つくこともあったし。でも、優しいところで救われたこともあった、ダメなところを上回るほど先輩への好きな気持ちが消えない。きっと執着してるだけだけど、もう少し待てば返事を貰えるかもしれない。
先輩のことが忘れられず時々トーク画面を確認してみたり、過去のトークを見返したりしたが、連絡はなかった。大学生最後の年、普段通り先輩のことが忘れられず、連絡アプリを開こうとしたらひとつの通知、部活のグループチャットだった。発言したのは先輩、一言と写真。「結婚します」その下に知らない女性と先輩が笑顔で写った写真が添付されていた。鈍器で殴られたような気分だった。最悪な気分。結婚式の招待状が送られてきていたが行かなかった。
ショックだった、返事すらしてくれなかった。ちゃんと振って欲しかった。
そんな人だと分かっても連絡先を消すことすら出来なかった。まだ好きなんだろうな。
いつも眺めるだけだったトーク画面を開いて結婚を祝う言葉を送った。
「幸せに」
4/1/2026, 3:23:32 AM