霜月 朔(創作)

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昨日と違う私



私はずっと孤独でした。

人間の悪意に心を殺され、
人の目を避ける様に、
傷を抱えたまま、
独りきりで生きていました。

貴方は、こんな私を、
見付けてくれました。

貴方は優しくて、温かくて。
私は初めて、人として、
生きる事を赦されたと、
感じました。

貴方は優しかった。
私だけでなく、
他の人にも。

貴方の瞳は、
まだ誰かの影を映していて。
貴方の指先は、
他の誰かの心に触れていて。

それでも笑う貴方を、
私は一人、見詰めることしか、
出来なくて。

けれど胸の奥に、
名もなき闇が蠢き出しました。
それは『愛』と呼ぶには、
余りにも黒く、余りにも大きく、
余りにも熱いものでした。

貴方の優しい微笑みは、
変わらず温かいのに、
私だけのものではない。
その残酷な事実が、
私の冷たい心の闇は、
大きくなるのです。

昨日までの私は、
貴方の微笑みの欠片だけでは、
魂も心も虚ろなままで、
貴方の魂を求めて、
闇の中で藻掻いていたのです。

だから、私は。
焦燥心のままに、
貴方を、私のものにします。
貴方の心も、身体も、魂も。

貴方の身体から溢れる赤は、
私の身体を朱に染め上げ、
私のひび割れた心と身体に、
乾いた大地に降る恵みの雨の如く、
染み渡っていきました。

私の腕の中で、
貴方の鼓動は消えてゆき、
貴方の最期の吐息を、
私の口唇で受け止めます。

満たされた私。
昨日と違う私。
だって。
私と貴方の魂は一つとなり、
永遠となったのですから。

5/23/2025, 8:11:41 AM