霜月 朔(創作)

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ぽつりと涙が落ちる。
それは、何かを失う音。

涙は静かに、頬を伝い、
誰にも気付かれずに、
夜の底へと還ってゆきます。

貴方が笑い掛けてくれた日を、
まだ、覚えています。
余りにも、優しくて。
でも、とても脆くて。

だから。
欲しくなってしまったのです。
貴方の全てを。
呼吸も、声も、
血の温もりさえも。

愚かなことだとは、
知っていました。
ですが。
赦されたいとは、
思いませんでした。

ただ、
共に終わるために、
過去に奪われないように、
この手を汚したのです。

貴方にとって私は、
特別な存在になれないから。
誰にも奪われないよう、
貴方の心ごと、
閉じ込めるしかなかったのです。

貴方の瞳が閉じたとき、
漸く、私は貴方と、
ひとつになれた気がしました。

貴方の最期の震えが、
私の鼓動になり、
涙が流れる音となり、
静かに、溶け合ってゆきました。

私は今もここにいます。
眠らず、泣かず、
ただ、消えゆく、
その温もりだけを抱いて。
凍りゆく夜の中で、
貴方の名を心に刻みます。

ぽつりと涙が落ちる。
それは、何もかも失う音。



3/30/2025, 8:28:46 AM