「 」
-なにも、返事は返ってこない
「また無茶したねー」
ヘラヘラとしたうざったい声に、少年は頭上を睨んだ。案の定、軽薄そうな笑顔が見える。
「うるせぇ」
少年の暴言に、男はひどい!といって口元に手を当てる。シクシクとなき真似をする手の下は満面の笑み。その顔がまた少年の苛立ちを加速させるのだ。少年は舌打ちした。
「大体、無茶も無謀も1人で敵陣に突っ込むやつよかマシだ!」
病棟であることを多少は気にしているのか、小声で噛み付く。男はそんな賢い少年の頭を撫でる。少年の顔が一段と険しくなる。全て逆効果である。
「俺は良いじゃん、子供を守るのは大人の役目だもん」
「年上ヅラすんな、」
ペシッと男の手を払い、睨みつける。だんだんとうるさくなってゆく2人に、看護師は注意するか否か迷っている様子だ。そんな周りも梅雨知らず、男は少年の態度にムスッと顔を顰め、腕を突いた。
「いだっ」
先程怪我をした場所が痛み、気を抜いた少年を男がたちまち抱き込んだ。身動きが取れない。
「はーい怪我人は大人しくしてようねー」
「はなせや!」
案の定、少年が暴れる。流石に見過ごせなくなった看護師から「静かにしてくださーい」と注意された。2人とも、ハッとして止まる。周りを見ると、生暖かい視線を感じた。少年は舌打ちをして俯き、男は少し恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。
その後、しばらく小競り合いをしていた2人だが、少年は男に抱き込まれた状態で安定したようだった。
男は揺籠のようにゆらゆらと揺れながら少年の髪を撫でる。少年は諦めて、されるがままだ。
「リンはもう少し大人を頼ろうなー」
「説教かよ」
「人を頼るのは大切だからな!」
少年はうんざりしたようにため息をついた。「どの口が」と呟いたが、男は見て見ぬ振りである。都合がいいのか何なのか。少年はうんざりとまたため息をついた。
「あっそうだ!」
男はいきなり大声をだして、んふふ、と笑う。少年はそれが気持ちの悪い笑みにしか見えない。悪魔かと錯覚した。
「なんだよ」
「合言葉を作ろう」
「合言葉ぁ?」
思わず間抜けな声が漏れた。突然の小学生のような提案に、少年は混乱した。大丈夫なのか、この頭。
思わず拳を握ったが、すんでのところで思いとどまった。えらい。
「そう!リンが俺に助けをもとめるときにつかう合言葉!良いでしょ」
少年の不穏な行動を知ってか知らずか、男はそのまま無邪気に笑う。少年はまたうんざりと顔を顰めた。
「ガキかよ」
少年の無性に実感を伴って吐き出された言葉も無視して、男は首を捻り出した。話は聞かないと言わんばかりである。
「いーじゃんつくろーよー、はい決定!なんにする?」
「勝手にやっとけ」
「え〜なにがいいかなぁ?うーん・・・あっそうだ!」
「 」
「この合言葉を言えば、俺が必ず駆けつけるからね」
嘘つき
(ごめんね)
10/26/2023, 10:21:03 PM