夜叉@桜石

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雨が降っている。
今は何時だろうか。やけに、暗い気がするけれど、私達がアレと戦い始めたのは、昼過ぎだったはずだ。何かが、おかしい。
ぼたぼたと、何かが、私の顔に落ちてきた。なんだろう、と目を開けたところで、暗かったのは目を閉じていたからかと、思った。が、違った。少し、明るくなったものの、視界はぼやけていて、色も暗い。
おかしいのは、私だった。
彼が、私の名を呼んだ。
嗚呼、無事だったのか、怪我はないかい?君は、すぐに無茶をするから、また、怒られてしまうだろう?
そう、言ったつもりだった。
声が出ない。
嫌な、予感がして、体を起こしてみる。
力が入らない。
しまった、なぁ。これは失敗した。そういえば、アレを倒した時、相討ちで、腹を貫かれたんだった。知っていたかい?アレは毒も、使えるんだね、驚いたよ。
そういえば、私の顔に落ちた雫は、彼の涙だったんだ。
「大丈夫…?」
変な音だけれど、伝わるかな。
なぜ泣いているのか、仲間は無事か、怪我はないか、たくさん、意味を込めたつもりだよ。
おい、なんでもっと泣くんだ。私と二度と会えないみたいじゃないか。また、必ず会える。きっとね。
感覚が、もうほとんど無い、私の体から紅が零れて、意識が遠のいて行く。もう終わりか、あっけない。
ごめんな、守れなかったようだ、約束。
今度は守れると思ったんだけど、これじゃあ、いつまでたっても駄目かもしれない。
雨が、降っている。
うるさいなあ、せっかく今回最後の会話をしているというのに。いや、私は喋ってなかったか。
何かを叫ぶ、彼の言葉は、最後までわからなかった。
ほんとうに、ごめん。
見えないけれど、気配が増えた。仲間なら生きててよかった、敵なら彼らを傷つけたら許さないよ。地獄の底まで引きずり落としてやるからね。
視界が極彩色の渦に飲み込まれる。次は、どんな人生だろう。そうだ、最後に一言、言っておきたい。
「ありがとう」
私は彼らに、愛を零す。

4/22/2024, 5:17:32 AM