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secret love

 ざわつく休み時間の教室のなか、男子生徒の声が響き渡る。

「皆さん、聞いてください!」

 クラスの人気者、そのスピーカーが教卓に座って、教室全体に聞こえるように叫ぶ。
 ざわついていた教室が静まり返る。

「……さんの好きな人は! 委員長でっす!」

やめて!
やめて!
私は教室の隅の席で縮こまる。

 昨日、ついに私はクラス委員長に告白をした。今まで、誰も言わず秘密にしていたことに、耐えられなくて。
 勇気を出して告白したけど、返事は『ごめん』だった。
 だから、せめて彼には、私が告白したことを秘密にしてと言ったのに。
 早速スピーカーにしゃべったんだ。
 
 クラス中の視線が、私に突き刺さる。
 やめて!
 お願いだから、みないで!
 
 私は机にうつ伏せ、皆の視線からの逃れる。涙が止まらない。
 そのときだった。

「当校の生徒の安全と精神の保証等に関する校則7の2条」

 凛とした、生徒会副会長の声が聞こえた。
 思わず顔を上げると、全校一人気の女子生徒が立ち上がった。クラスメイトの視線が、今度は副委員長の方に向けられる。
 副委員長は淡々と続けた。

「生徒各人は、安定した学校生活を行う権利を有しており、それを妨害してはならない」

 2項の1には……と、続ける副会長の声を聞き、クラス中は黙る。

 どういうこと?
 私も何が何だかわからず、生徒手帳を開いてみた。確かにこの条文が書かれている。

「この、個人的な情報を皆に吹聴して回ることによって起こりうる結果、……さんが安心して過ごすことは難しいと、予測されます。ですから」

 副会長は、スピーカーに向かって言った。

「コンプライアンス違反が発覚したため、……君のこの行動は、担任に報告させていただき、その後の処分を委ねたいと思います」

 教室が再びどよめいた。
「そ、それは、クラス委員長が言え、って言ったから!」
スピーカーが委員長に向かって怒鳴る。
「こんなことになるなんて、思ってなかったんだ!」
 委員長はスピーカーに言い返し、みにくい争いが始まった。

 そのとき、引戸が開いて担任が入ってきた。
 蜂の巣をつついたような騒ぎに眉をひそめながら、担任は教卓につく。
 すると、副会長が担任にレポート用紙を渡していた。


 後日。
 スピーカーの男子生徒とクラス委員長に、反省文50枚が課されたという噂が、おそらく、もう一人のスピーカー女子生徒から流された。
 証拠はなく、特に取り締まられることはなかった。

 多分、副会長にかばわれたんだと思うんだけど……と、私は不安にになった。
 この事で余計、苛められるんじゃないのではないかと。

*****

 こうして、この事件は学校の伝説となり、いつまでも話題に上った。
 原因についても、当時の私の好きな人が、同じクラス委員長だったということまでも語り継がれている。

「あのとき、同じクラスの委員長が好きだったんだよね」
「あのときに副会長、かっこ良かったよね」
 同窓会で出会う度に、あまり親しくもないかつてのクラスメイトたちに、あのときのことを、いつまでも持ち出される。
 
 あまりにも気まずくて、同窓会にいくのをやめた。

9/4/2025, 9:16:06 AM