Ryu

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満員電車で痴漢されている女子高生を助けて、ホームに降りて逃げ出そうとする男を羽交い締めにして駅員を呼んだ。
最終的には警察もやってきて、詳しい事情を説明した上で「被害者の方は?」と聞かれ周りを見回すと、女子高生と思っていた被害者がカツラを放り投げ、そこには加害者の恋人だという男が立っていた。
要するに、そーゆー二人のそーゆープレイだったらしい。
恨めしそうな目で二人に睨まれた。

…え、俺が悪いの? 二人の邪魔をしたの?
警官は、公衆の場でそのような行為は控えるように、と厳重注意して、二人を解放した。
ホームに残された三人。

「あ…なんか、すみませんでした」
とりあえず、頭を下げる。
さっきまで女子高生だったはずの男が、
「私達の愛の形に、何か問題がありますか?」
真面目な顔で訊いてくる。
「いや、そんなことは…ただ、ちょっと想定外だったもので…」
「あなたの想定内に収まるつもりはありません」
「はあ…そりゃそーですよね」

社会通念ってのは、正しいのか。
それに反していたら、非難されてしかるべきなのか。
そんなはずはない。
人は多種多様で、それぞれの持つ正しさは数限りない。
社会通念的にたとえ間違いだったとしても、あの二人が幸せの片鱗をそこに見い出すのであれば、それは他の誰にも否定することは出来ない。
ただ、家でやれ、家で。

「私達はね、誰にもバレないように、こっそりと楽しんでいるんです。あたかも本物の痴漢のように」
いや、そんなんだから他の人の目に怪しく映るんじゃ…という言葉を飲み込む。
俺が声を上げなければ、彼らは至福のまま、愛を深めていた訳だ。
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて何とやら、だ。
いや…家でやれよ、家で。

二人が電車に乗るのを見送る。
何となく、一緒に乗るのは気が引けた。
次の電車を待って乗り込み、目的の場所へ。
永田町駅で降りて、出頭命令のあった最高裁判所へ向かう。

俺の彼女への愛の形。
それは、いかなるものにも邪魔されない、究極の愛。
ところが、国家権力に邪魔された。
ストーカー規制法に触れるという。
愛の形は十人十色じゃないのか?
本気で愛したら、ずっと一緒にいたいと思うのが当然じゃないのか?

今日の二人に出会って、社会通念的にたとえ間違いだったとしても、幸せの片鱗がそこに見い出せるのであれば、それは誰にも否定出来ないはずだと改めて思った。
もちろん、これだけの愛を注がれている彼女がそれを拒むはずがない。
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて何とやら、だ。

この裁判が終わったら、君の家に行くから。
待っててね。

4/22/2024, 2:23:44 PM