「来い」
その一言だけ。弟子を抱き寄せ外套の中に入れる。
昔は蓑で乗り切っていたが、外套も悪くない。二人で身を寄せ合えば、真冬以外は野宿も何とかなるものだ。
とはいえ弟子も年頃になり、密着するのを嫌がるようになった。女として育てた覚えはないが、ちゃんと女になっているようだ。
師弟だが親子のように思っていた。甘えぬように、一人で生きていけるように、厳しくはした。だからたまには良いだろう──とは口にしない。
甘やかしているつもりで、本当に離れられないのは俺の方かもしれない。
「もう、子供じゃないんだけど」
不満そうな声がくぐもっている。抵抗しても無意味と悟ったか。
「今夜は寒さが身に染みる……諦めろ」
ぎゅうときつく抱き締めて離さない。
一体いつまでこうしていられるだろうか。
揺らめく焚き火を眺めながら、もう少し、この時が続くことを望んでしまう──ほのかにあたたかな夜だった。
【寒さが身に染みて】
1/11/2024, 2:24:17 PM