たくさんの思い出
『御朱印集めしてる人って変な人多いですよね。』
初対面の人間に、しかも婚活の場で笑顔で吐かれた毒に眉間に皺を寄せて黙り込む。
売られたケンカは買う主義だが、買うケンカは選ぶべきである。買う価値すらない相手のくだらないトスをいちいち打ち返すだけの無駄な動作すら惜しい。
レスバを即座に返さなかった自分の賢明さを全力で称賛した。そもそも他人の趣味にとやかく言える程の高尚な趣味をお持ちな顔には見えませんが?
黙ってしまったこちらの態度に何を勘違いしたのか己の趣味をひたすらに語り始める声をBGMに精一杯頭を回すことに集中する。
『ね?僕友達多いからさ』
にこやかに笑いかけてくる相手の目を見ながら
一言。
『ごめんなさい。私、御朱印集めしてた時の楽しかった思い出ばっかり考えてたから。』
ニコリと笑って席を立つ。
伝票を確認して自分の分だけ置いて立ち上がった。
『え?』
戸惑う相手を見下しながら笑いかける。
『ごめんなさい、厄除けに神社に行かなきゃ。
お疲れ様でした。いいご縁があるといいですね?』
『変な奴!』悔しそうに吐き捨て男を置き去りに
じゃあ、と言って立ち去った。
旅の思い出はたくさんある。
御朱印はその思い出のかたちだった。
閉塞感を脱却したくて始めたスタンプラリーはいつしか各地を巡るたくさんの思い出と共に形を残してくれる。
思い出は宝だ。
限りある時間の中で、思い出の輝きは消えない。
『他人の趣味にケチつけるなんてほんと品がない!』
案外と神様が裏から手を回して縁を繋がないでくれたのかもね。
まぁいいか、と切り替えて週末にでも御朱印帳を片手に日帰り旅行に行こうと考えた。
※某ツイート見た
11/19/2024, 5:02:12 AM