バスクララ

Open App

 とっておきのロイヤルミルクティー、そして自分のご褒美用のクッキーを名前も知らない女の子に差し出す。
 女の子、といっても高校生くらいの子だ。目力の強い凛とした雰囲気の子。
 どうしてこうなってるのか。そんなの私が一番知りたい。
 女の子は恐縮しながら一礼してズズズと飲み干した。
 いい飲みっぷりだなあと思いつつ紅茶ってそう飲むものだっけと考えてしまうのは私のこれまでの価値観からだろうか。
「……で、あなたは誰なのさ。あの手紙に書いてあったのが真実だとして……本当に私の娘なの?」
 そう訊くと女の子は少しだけ目を伏せて静かに語った。
「……疑う理由もよくわかります。だって私はまだこの世に存在していない人ですから。
お母さん直筆のあの手紙だけが私を私だと証明してくれる唯一の物。
……信じられなくて当然ですよね。
でも本当なんです! 私がここに来ることでお母さんは助かるって……」
 そう言う彼女の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
 未来の私はこの子を悲しませるようなことになってるのだろうか。何かの病気とか?
 ……私、いたって健康体なんだけどなあと心の中で呟きつつ私は女の子の目を見据える。
「わかった。言いたいことも聞きたいことも山ほどあるけど……とりあえずはよろしくね」
「あ、ありがとうございます!」
 私に頭を下げて女の子は安心したように笑う。
 ……未来の娘と共同生活がこれから始まるのか。
 まあこれはこれでおもしろそうだと思ってしまうのは持ち前の好奇心からだろうか。
 あの手紙には未来のことを知ってはダメとか書いてあったけど、娘のことを知ってはダメとは書いてなかった。
 これから少しずつ知っていこう。私のことも含めてね。

2/19/2025, 1:29:40 PM