anago.

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太陽みたいな人だった。いつも校内を走り回って先生に怒られるような明るくて眩しい人。クラスの中心になって皆を引っ張っていく存在。
余命が決まっていた僕にとって関わることは一生ないと思っていた。ジャングルジムから落ちて骨折した、という人気者の彼と同室になって毎日が楽しかった。自分がすることに興味を示してくれたり、知らない世界を教えてくれた。

それから、骨折が治ってからも度々訪問があった。日ごとにパチパチと弾けるような火花から、太陽のようにキラキラと、周りと照らす存在に。そんな姿がいっとう好きだった。

神様はいつも残酷だ。

いつもの簡単な手術が終わって、自分の部屋に運ばれる。

慌ただしく走る音と、声。ここまでの焦りようは事故で大怪我を起こして、生存が難しいと言われる程のことだ。
すれ違いざまに顔が見えた。
血まみれの顔が。僕がよく知っている顔が。


その後、一命を取り留めたがドナーが必要だと風の噂で聞いた。ほかの先生がヒソヒソと話をしている場所に行ってみたり、それとなく情報を集める。いつもは不自由な体が、ここまで動けるのかが不思議だった。....彼のためのドナー登録をしておいて良かった。

いつもの身体検査が終わり、なにか要望があればという所で伝えてみる。
「ねえ先生、僕長くないですよね。」
小さな頃からの主治医だ。
「.....君たちの関係を長くみていたからこそ、君が何を言おうとしていることもわかっている。...君の意思は変わらない?」
肯定の代わりにニッコリと笑う。あなたが本物の親だったら良かったのに。
「...はあ、わかったよ。担当に伝えておく。」
先生が僕の病室から出ていく。自分の手すらもぼやけていて、あまり長くないことは悟っていた。

それならば。
他でもない、君のためになるならば。この命、差し出すことも厭わない。


眠る瞬間、カサついた大きな手が頭を撫でてくれた、気がした。


誰かから呼ばれたような気がして、深い眠りから覚める。体が鉛のように重たくて動かない。
....ここは、どこだろうか。
「...起きたね。」
見覚えのある先生が俺の顔を覗き込んでくる。目元が微かに赤い。情報がまとまらない俺を他所に、先生はストレッチャーを使って俺の体をどこかに連れていくようだ。
起きてくれなかったら、アイツの顔が立てられないからな...と移動中に呟く。

そこは冷房が付いているのか肌寒いを通り越して、刺すような痛みを感じるほど。
いくつかの部屋を通り過ぎたあとに、目的の部屋についた。

冷えた部屋の真ん中に安らかな顔で目を閉じているアイツがいた。
どうして、こんな場所にいるんだ。
「...本来は2~3時間程度までだが.....今回はトクベツだ。私のわがままで面会できるように、と院長に頭を下げて頼み込んだ。...1日で目が覚めたのは僥倖だな。」

ストレッチャーに乗せられたまま隣に寄せられる。痛みで動かない体に鞭を打って、なんとか顔をアイツの方に向ける。
...あーあ。いつ見ても綺麗な顔してやがる。
腕はさすがに動かなかったから、先生に持ち上げてもらった。

ずっと、手を繋ぎたかった。
夢でもいいから、と願うほどに。

握った手からは何も伝わらないが、ここに、一緒に生きていた証があった。
折り紙で蛙足の鶴をやたらと見せてきたり、体調が悪い日でも毛糸を編んでいて、それが自分のためのマフラーだと知らずにモヤモヤしていた頃もあった。

俺を見つめる目が、部屋に差し込む光でキラキラとしている。眩しくて少し、顔を見れない事が何回か。

余命だとしても、アンタに出会えて、くだらない事で笑いあって、その上生命をもらった。いまでも貰った鶴は机の上に置いてあるし、マフラーは冬になると肌身離さず付けている。

世界で1番幸せだった。出会えて良かった。
神様、どうか声を聞かせて。
叶うなら、二度と離れないように、もう一度結んで欲しいんだ。


僕の太陽。
あなたがそこにいてくれたなら、それでいいんだ。

俺の淡月。
出会えたことに感謝を。




7/27/2024, 3:05:36 AM