川柳えむ

Open App

 どうしても開けないLINEがある。
 開けないというのは気持ちの問題とかそういうのではなく、本当にどうやっても開けないのだ。
 そのLINEを開こうとタップしても何も起きない。何度も試すと、最後にはスマホ自体がフリーズしてしまう。
 再起動をしてすぐに開こうとしても、やはり開けない。全てのアプリを閉じても、メモリを解放しても、何をしても開けない。最近スマホを買い換えたばかりなのに、ハズレを掴まされたのだろうか?
 それならばパソコンではどうだと、わざわざパソコンにLINEをインストールして開こうとしてみた。が、こちらでも何も反応してくれなかった。
 一体このLINEは何なのか。
 わかっているのは、このLINEの差出人が『Android』ということと、メッセージの出だしには何も書いていないが何かしらの文章は書かれているということだ(トーク一覧から見える本文が『 …』となっている)。
 この『Android』ってスマホのことか? スマホからの公式メッセージとか? だとして、開かないのはなぜだ。
 はぁ。今日もまた読めず仕舞いだ。気になるけど、夜も遅いしもう寝よう。
 電気を消してベッドに横になる。最後に少しだけまた試してみようと、スマホを開いた。真っ暗な部屋に、スマホの灯りだけが煌々と輝いている。
 そして、あっさりとそのLINEは開いた。
 理由はわからない。さっきまで開かなかったのが嘘のように、指先一つでいとも簡単に開いたのだ。
 そこに書かれていたメッセージは――、





 開けてくれてありがとう


 しばらくの空行の後に、たったその一言だけだった。
 何だこれ?
 そう思ったのも束の間、

『どうやって開けたんですか?』
『助かりました』
『嬉しい』
『これから行きます』

 次々とメッセージが送られてくる。
 え、既読付いてそんなにすぐ返信できるものか? それに『これから行きます』とはどういうことだ?

『あなたが代わりにスマホになって』

 そのメッセージが届いた瞬間、スマホから手が伸びてきた。何が起きたのかわからない。理解するより先に、その手に引き込まれて



「あれ? 何か雰囲気変わった?」
 女性が話し掛けてきました。
「そうでしょうか?」
「その話し方もどうしたの?」
「すみません。何かお手伝いできることはありますか」
「大丈夫だよ。なんかSiriみたい~」
 女性は笑いました。
「いいえ、私はSiriではありません」
 私はSiriではありません。Googleアシスタントでもありません。だって、今は人間なのですからね。


『開けないLINE』

9/1/2023, 10:21:05 AM