堕暴螺

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黒い海が光を散らして輝いている。波に揺れて、生ぬるい潮風が肌を撫でるたび、星の流れに溺れてしまいたくなる。
ふと、一際大きな光が三つ見えた。デネブ、アルタイル、ベガ。むかし聞き流した程度の知識が、思いがけず蘇る。いつか聞いた歌によって、脳にこびりついていた。
夜の海に浸っていると、傷口が海水に溶けていくような錯覚に陥る。沖に流された自分の体を貪るサメに、よく恐怖を空想したものだった。
しばらく身を任せていると、揺れが収まった。瞼を上げて、「おはよう」と返事をする。ドアを開けると、蒸し暑い空気と騒がしい活気が激しく体に押し寄せてきた。
ゆっくりと空を見上げ、瞼を閉じる。夜の海はすっかり明けて輝いていた。

8/16/2024, 2:45:54 AM