◯◯っていう作家の、ゴーストライターしたことがある。
割と有名作家で賞も取ってる先生。
あ、それは私の書いたやつじゃないけど。
初期に何本か書いてあげただけ。
あんまり部数伸びなくて、使ってくれなくなっちゃった。
今は他のライター使ってるのか、また書けるようになったのか知らないけど。
でもあの先生、私の書く話が一番好きって言ってくれたんだよね。
多分、あの先生が私の書く話を一番理解してくれてるんだと思う。
告訴とかしないよ。
私の話を世に出せたし、今でも要求したら多分お金くれると思うし。
ねえ、知ってる? あの先生の作品によく出てくるチヒロって女の子いるじゃん。
あれ、私のことなんだ。
そうやって作中にラブレター書いてくれるから憎めないの、先生のこと。
昔付き合っていた女の子がこう言っていたのだが、僕は本気にしなかった。
いつもよく嘘を付く子だったし、何より彼女は◯◯という作家の熱烈なファンだった。行き過ぎた妄想というやつだと思っていた。
妄想癖のその子とはすぐ別れたのだが、彼女は今、行方不明になっているのだという。
数年前から連絡が取れず、姿を消してしまったらしい。
つい最近、◯◯という作家の最新作が映画化されると話題になっていた。
◯◯は作家として成功しており、今や売れっ子だ。
特に初期の短編は、毒気と瑞々しさの両方を備えた良質な物語として、再評価されていた。
何となく、今回映画化した作品のあらすじをネットで調べてみた。
僕は、作品の登場人物にチヒロという少女がいることに気づく。
彼女が物語の中で辿る運命を知って悪寒が走った。
妄想癖のあるチヒロは、惨殺されて森の奥に捨てられるのだ。
数年前から行方不明になっているあの子のことが頭に浮かんでいた。
……まさか。
いや、そんなことないだろう、そんな小説みたいな出来事なんて、あるはずがない。
僕は、頭によぎったことを打ち消したが、手の震えはとまらなかった。
7/14/2025, 4:59:10 AM