【お題:クリスマスの過ごし方】
ガチャリと、事務所のドアを開く。
外の窓から明かりが見えていたため、誰かが残っているのだろうとは思っていたが、ドアを開けた先は、なぜかお祭り騒ぎであった。
バタバタと動き回るウチの従業員と、赤と緑の紙やらなんならで飾りつけられた室内。
ある程度広めの机の上には、チキンを中心とした、様々な料理が並んでいる。
これらを指揮しているのは、どうやらシエルのようである。
「シエルさん、この騒ぎは一体……」
「あっ! 華扇くんお帰り! 今日はクリスマスだよ!」
「くりすます?」
シエルは、異世界からの転移者だ。
レークスロワでは、転移者はさほど珍しいことでもなく、基本的には放置されているが、彼女は訳あって保護対象となった。
その訳は、彼女の指揮を忠実に聞いて行動している、うさぎ耳の青年……元々桜花國、西側の領主をしていたが、十王並びに柱達の反感を買い、何をやらかしたのか捕まっていた過去のある男、盡兎(じんと)。
獣人というのは、番と呼ばれる、生涯の伴侶がいるそうで、シエルは盡兎の番である。彼の監視と首輪が必要だと思っていた十王にとって、彼女は適任者だった。
そして、レークスロワの常識をシエルに叩き込む役目を任されたのが、私達、探偵事務所ドラセナである。
よって、元々四人で活動していたのが、六人と大所帯になったものであるが……。
度々、シエルは訳分からないことをする。どうやら、今日もソレらしい。
「十二月二十五日は、僕が住んでたとこでは聖夜って呼ばれててさ、それがクリスマス」
「また、宗教みたいな話ですね」
「宗教だよ。神様の生誕祭だもの。あぁだからって勘違いしないでね? 僕は別に興味無いから」
ではなぜ、異世界に来てまで生誕祭をやっているのか。
疑問が顔に出ていたのだろう、シエルは苦笑いを零した。
「いいじゃない、美味しいものを食べる日があってもさ。僕にとってのクリスマスは、美味しいものを食べる日なんだよ」
「シエル、こちらはどこにおきますか?」
「あぁ、盡兎くん、熱いから気をつけて。それはそっちのテーブルで……」
一瞬、遠い目をした彼女であったが、すぐに準備に戻る。
シエルと入れ替わるように、トコトコっと、白い片羽を持った女性、チェカが隣に来た。
「お帰りなさい華扇さん。お仕事お疲れ様です。」
「ありがとうございます。なんだか、騒がしいですね全く」
「ふふ、でも楽しそうじゃないですか。姫川さんや宮野さんまで張り切っちゃってますもん」
奥を見ると、確かに姫川が料理をせっせと作ったり温めたりし、宮野がそれを手伝っている。この二人も転移者で、私達とは、色々あって行動を共にしている。
「やれやれ、異文化交流とはこんな感じなんですかね?」
「あははっ、確かに。ここにいる皆、転移者ですからね」
「類は友を呼ぶとはよく言いますが、なぜ転移者がこんなに集まったのやら」
クスクスと、チェカは可愛らしく笑うが、私が出会った転移者第一号が、自分であると理解しているのだろうか。
「華扇くん! チェカくん! 準備できたよ!」
「はーいっ!」
チェカが片手を上げ元気よく動き出す。
私もそれに続いて、席に着いたのであった。
ーあとがきー
今回のお題はクリスマスの過ごし方!
……レークスロワってクリスマスないんですよ……だから、クリスマス系のお題は書かないことがままあったのですが、せっかくだからと書いてみました。
今回の語り部は華扇くんっ! とりとめのない話で、暗い部屋にいた子ですね。彼が外に出てからの話。
このメンバー、レークスロワ出身は、華扇と盡兎の二人、後は異世界からの転移者となります。
転生者ではなく、転移なので、向こう側で死んだわけではないですね。
彼女達の話も色々あるので、今後のお題次第では出そうかなと思ったり。
あとですね、クリスマスの概念がないってことは、初詣とかの概念もないです。きっと、この辺りのお題も来るだろうなぁ、どうしようかなぁと今から悩んでおります。
それでは、この辺りにいたしましょう。
また、どこかで。
エルルカ
12/25/2024, 8:09:20 PM