wtプラス、819プラスネタ

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冷蔵庫に貼り付けられたそれを、いつの間にか意識せずとも見るようになった。最初の頃は早く返さなくてはと、気持ちばかりが焦っていたのに、今や最初からここにいたように、落ち着いてしまっている。何となく手に取ることも憚られ、あの日から随分時間が経ってしまったような気もする。「さすがに、返さんと」分厚くて存在感のあるハガキは思っていたより軽くて「当たり前やろ」あほか、と呆れたように独りごちる。裏を返せば懐かしい名前、指でなぞっても何もないのにそのざらついた感触になぜか口元が緩む「おセンチやなぁ」リビングのボールペンを手に取り、『御出席』の『御』を二重線で消し、丸をつける。「すごく嫌な女だと思ってくれてもいいから」この招待状を送った時に貰った電話を思い出す。電話口で早口気味に話す彼女の声が懐かしくて、思わず笑ってしまった。「笑ってる?」「あぁ、悪い。電話で話す時、自分いっつも早口やんな」「そんなこと覚えてなくていいのに」他愛もないどうでもいい、でも俺たちしか知らないはずのことなのに、少しだけ胸が痛んだ。「結婚するの。敏志には来てほしくって」「イケメンの元カレって紹介してくれるんか」「そういうの嫌いなの知ってるくせに」俺じゃない男と結婚するくせに、恋人同士のようなやり取りをするなよ。電話の向こうの声や二人の空気は何ひとつ変わらない気がするけれど、きっとそれも都合よく自分が思っているだけ。自分たちはもう違う道にいるんだと、踏み込めないこの上澄みを掬う会話でハッとする。「いい返事、待ってるね」耳元で鳴り続ける電子音が聞こえた気がする。メッセージ欄に何を書こうと筆を迷わせ諦める。「幸せにな」

3/31/2024, 2:42:47 PM