「雪が溶けたら何になるでしょうか〜?」
「は?」
水になるに決まっているだろう。
なんでも有名な漫画では、綺麗で一途な女子が「春になるんですよ」と言い、凍てついた男の心を溶かしていくんだとか。
「手袋は確かに受け取った。では」
年末、ストーカー女子高生に成り行きで手袋を貸した。
面倒だから返さなくてもいいと思ったが、手袋が辱めを受けたままになるのはいい心地がしないので、仕方なく受け取った。
そうしたらこれだ。妙な問いかけをされ、彼女は完全に漫画のヒロインになりきっている。危ない、逃げたい。
「待って待って待って!少しは話をさせて!」
「頭のおかしい人間と話す暇はない。これから出勤だ」
「今年もよろしく!」
「するわけないだろう」
「あっ」
どしゃ、と音を立てて彼女は転んだ。上体は起こしたが、全身雪まみれだ。
「うっ……新年早々、こんなのって……」
そして、泣いた。
人目も憚らず、彼女は手で顔を覆って泣き始めた。
「フラれるし、転んで痛いし、雪まみれだし……」
通りすがる人々の視線が痛い。転んだ女子が泣いていて、そばにいる知人らしき男が棒立ちしているのだ、当然かもしれない。
彼女はストーカーで、俺とは関係……なくはないが、被害者は俺で。だがそれを説明する余地はない。このままでは完全に悪い男と認識されてしまう。
俺は、世間体を取ってしまった。
「大丈夫か?」
躊躇いながらも手を差し伸べる。すると、泣いていた彼女は何が起こったかわからない顔をして硬直した。
「ほら」
手を掴んで強引に立たせた。世間体が大事なので、いつまでも地べたに座らせておくわけにはいかない。
「ありがとう……嬉しい」
「無事ならいい。俺はもう行く」
冷たい言い方になってしまったが、もういい。あまり関わると調子に乗ってきそうな気配を察知した。早くここから離れよう。
「あの!」
まだ何か、と首だけで振り返る。彼女はさっきよりも顔を赤くして言う。
「雪が溶けたら、恋になってるといいな……!」
「ならない!」
【雪】
1/8/2024, 12:43:33 AM