自転車に乗って

Open App

仕事は楽しいけれど、たまにはひとりの時間もほしいな、とふと思った。
知らない街を歩いたり、温泉に入ってゆっくりのんびり過ごすのも悪くないなあ。二日間だけ、どこか遠くに行こうかな。夏休みだし。

そう決めたわたしは、部屋を出て、玄関のドアに臨時休業と書かれたプレートを取り付ける。と、そのとき。ちょうど取り付けるのを見ていたらしい彼が「しばらく休むのか?」と聞いてきた。その声が少しさびしそうに聴こえたのは、わたしの思い過ごしだろうか。

何日も留守にすると思ったのだろう。安心させるように「ううん。二、三日だけ。旅行に行こうかな、と」と言うと、そうか、とほっとしたような返事が返って来た。

「ええと、なにかあった?」
「まあ、話したいことはあるにはあるんだが」
「あるなら今、聞くよ?」
「いや。お前が帰ってきてからでいい」
「そう? じゃあ、帰ってきてから話、聞くね」
「ああ」

じゃあ、と彼と手を振って別れた。話って、一体なんだろう。彼の様子は特に普段と変わらないように見えたけれど。まあ、二、三日後にはわかるだろうし、今は荷造りをすることだけを考えよう。

行き当たりばったりで突然行こうと決めた旅行。楽しまなきゃ損だ。鼻歌を歌いながら、わたしは旅立つ準備を始めた。


たまにはふらりと
(さあ、どこへ行こう?)

8/20/2022, 6:04:21 PM