→短編・拾得物リスト
自転車の鍵を落とした。私が自転車を使うのは、通勤で家から最寄り駅までで、夜の帰宅時まで自転車の鍵に触ることはない。朝に落としたのか、それとも勤務先か? とにかく交番に届けるのは明日以降だな。会社のロッカーを漁んなきゃ。他の人にはありふれた自転車の鍵だが、私にとっては大事な鍵。あーあ、見つかってほしいなぁ。
ふと思い出して、警視庁の忘れ物検索サイトを探してみた。カテゴリ別に検索でき、さらに拾った場所と落とし物の特徴が書かれている。リストを目で追っていた私は首をひねった。
「う〜ん、困ったな」
特徴欄には、「リング付き」とか「キーホルダー付き」若しくは「カードキー」といった簡単なものばかりで、特徴に乏しい。
「え?」
しかし、望み薄な気持ちそのままに流し見でスワイプしていた私の指が止まった。
な? なんだ? 何か変なものを見た。
同じような特徴が並ぶ中で、明らかにその文字は異彩を放っていた。
「特徴、未来への鍵」
えっと……、これ、どんな鍵なの?
見たら分かるものなのか? 私、今までの人生で未来への鍵を見たことないんだけど。こんな拾得物に普通に乗っちゃうものなの? ―ってか、これ誰でも使えんのかな? 自転車の鍵よりも絶対に役立ちそう。問い合わせ番号控えて忘れたふりして問い合わせできないかな?
スマートフォンの画面を長押しする指に力が入った。特定の数字を囲う。
そして「コピー」の文字。やるだけやってみたい! だって未来への鍵だよ?
「ーって!!! 何考えてんだ、私!?」
私が探してるのは自転車のロックを外す鍵であって、誰かの未来を開ける鍵じゃない。
やべぇ、危うく犯罪に及んで自分の未来にロックかけちゃうところだったよ……。
兎にも角にも明日は早出して会社のロッカーを探してみよう。
テーマ; 未来への鍵
1/11/2025, 8:53:13 AM