ドドド

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         澄んだ瞳。

 
「子供の頃の純粋な眼差しは、何故大人になると
曇るのでしょうか?」


教育実習先で知り合った真面目そうな女が
たまたま一緒になってしまった電車の中で
僕に聞いてきた。

そんなの知らないよ。

そう答えたかったが
下手したら同僚になる相手に対して
そっけない態度と思われるのも都合が悪いだろう
だから僕は、真面目に答えることにしたんだ。


「僕が思うに、きっと物事に対して
裏や、其処に至る道を知らないからじゃないかな」


余計な事まで考えずに済むから、子供というのは
真っ直ぐに対象を捉えることが出来る。

夢なら夢

愛なら愛

シンプルだからこそ美しく思える
宝石の様な眼差しを向けることが出来るのだ。


「‥‥‥でも、憧れや夢は、それ自体が曇ってる訳じゃないですよね、大人になると
どうして真っ直ぐな目で見れないんですかね?」


強い眼差しを向けて
女は呆れるように言った。


いや、僕に聞かれてもな。

正直そう思った
ていうかこの女、何処に話を持っていきたいんだ?
子供はピュアで良いよねって話じゃないのか?

いや、そうか
子供の話じゃなくて、最初から大人になると
何故曇るのかって話か

いや待てよ、尚更僕に聞いてきた意味がわからない


「‥‥‥あの、もしかして僕の目って
曇ってる様に見えるんですかね?」


少し棘のある聞き方だったかもしれない
が、それも仕方ないだろう。

子供の話じゃないとしたら
それこそ意味がわからないからだ。

なんの脈絡もなしに
こんな話を振られたら
喧嘩を売ってると思われても
仕方がないだろう。


「昔は、澄んだ瞳で夢を聞かせてくれたり
してたじゃないですか?

でも

今の貴方は、電車で一緒になっても
話しかけてくるなってオーラを出して
つまらなさそうに、つまらないことを
喋ってるから
変わったなって思ってます。」


僕はそこまで言われて初めて
まじまじと女の顔を見た。

大人になって眼鏡をかけているが
よく見れば初恋の女の子だった。


「今気付いたのね、呆れた
昔は、あんなに澄んだ眼差しで
愛を語ってくれてたのにね」


僕は何も言えなくなっていた
確かに子供の頃、彼女に対して必死に
夢を語っていた

結婚しよう

一緒になろう

絶対に幸せにする

そんなようなことをアピールしていた

なのに今、僕は彼女に言われるまで
そんな事もすっかり忘れていた。


彼女は、冷めた瞳で窓から景色を眺めていた。


なんとか汚名返上しようと
あれこれ考えたが、それこそ曇りだと
彼女の、もう用が済んだ瞳を見つめる事しか
出来なかった。









7/30/2024, 12:07:56 PM