ラフロイグ

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マンネリ化した日常を打破すべく、私は文明の利器スマホをかなぐり捨てて冒険の旅に出た。

先ず襲ってきたキャッシュレス決済の洗礼を華麗な身のこなしにて躱す。ジャラつく小銭をポケットに忍ばせて来た甲斐あって難なくクリアした。

次に、公共交通機関利用中の暇な時間が押し寄せてきた。ただただひたすらに妄想することでやり過ごした。逞しい想像力は今尚健在であった。VHS世代を舐めるな。

会社に着くと部下達がプリントアウトしたデータやら資料やら企画書やら始末書やらを一斉に提出してきた。
山のように積み上がった書類達が眼前にそびえ立っている。
と同時に内線・外線が鳴り止まない。
ここはメールやLINEなど無いアナログの世界。
しょうがない。

そんな世界とは言え、常に動いている。
部下、来客が代わる代わる訪れる。
どれもこれも取るに足らない内容だが、仕方がない。
内線・外線はキャパオーバーのパンク状態で繋がらないらしい。
その間にも書類の山はその規模を拡大し、手が届かなくなるほど険しさを増している。そろそろ脚立が必要だ。

内線9番が点灯した。
つまり上司からの呼び出しだ。
最優先事項だ。
積み上がった書類の山が連山を形成しだしているのを尻目に、上司の元へと駆けつけた。
もちろん叱責だ。
各所からの私へのクレームが鳴り止まないらしい…

正直、こんな無駄な時間を過ごす暇など無い。
こんなことをしている間にも、書類連山はその規模をますます拡大し、山脈を形成しているに違いないからだ。
早く、一刻も早く私を解放してくれ!

ネチネチと説教を喰らうこと約15分。
やっと席に戻ることが出来た。
しかしながら最早、席などそこにはなく、雪崩を起こしそうなほどの白い巨大山脈が警告音を発しながら私を出迎えた。


そこで目が覚めた。
スマホがアラーム音を発していた。
私はそっとスマホを抱きしめた。



——— さあ冒険だ ———

2/25/2025, 2:39:12 PM