ジャングルジム
昇降口には、たくさんのランドセルが乱雑に置かれていた。
「早く行こうぜ!」
ランドセル地帯を前に佇んでいると、低学年の男の子たちがボールを持ってやってきた。
背中に背負ったカバンを投げ捨てるように、彼らは校庭へ駆けていった。
足の踏み場のないくらいのその地帯の中、わたしも自分のランドセルを置く。
大好きな水色で入学祝いに買ってもらったものだ。
親はピンクや赤を勧めたけど、わたしは水色が好きだからと選んだ。
隣に置いてる青色のランドセルと並んで、そこだけが小さな空ができたみたいで、ちょっと嬉しい。
ボール遊びをする男の子たちを横目に、わたしはジャングルジムを目指した。
校庭には他にも遊具があるけれど、うちの学校のジャングルジムは一際大きい。ジャンボ滑り台と呼ばれていて、高学年にならないと登って遊んではいけないと言われている。
厳しくルール化はされていないけれど、暗黙の了解になってるくらいには浸透しているっぽかった。
広い校庭を見渡すことが出来るジャンボ滑り台の頂上がわたしの特等席。
遊具で遊ぶ人、追いかけっこをする人、ボール遊びをする人、お喋りに夢中の人、放課後の校庭は生徒たちで賑わいでいる。
同じクラスの男の子たちもいた。
放課後は決まってドッジボールをしている。他のクラスの子や、女の子も混じって仲良さげに遊んでいた。
その中に、あの人もいる。
陽気でいつもふざけてるのに、優しい、みんなの人気者。
クラスの端っこの方にいるわたしにも、笑顔で声をかけてくれるけど、わたしは恥ずかしくて、いつも見てるだけ。
それで充分なくらい、彼の眩しい笑顔はわたしの心の中を満たすんだ。
ここからの見てるだけでいい。
下校のチャイムがなるまでの、私の秘密の時間。
キーンコーンカーンコーン。
下校のチャイムが鳴ると、生徒たちが帰り支度を始める。
わたしも滑り台から降りて、昇降口へ向かった。
ランドセルのところへ行くと、ドッジボールを終えた男の子たちがやってきた。
「帰り気をつけろよ!」
帰り支度をするわたしに彼が笑って言う。
「おーい、帰ろうぜ」
「おー!今行く」
彼は隣の青色のランドセルを掴んで、じゃあなと手をあげて走っていった。
彼のたったひと言がわたしの心を揺らがせる。
また明日。
帰ってゆく彼の背中に、わたしはそっと呟いた。
9/24/2022, 7:31:37 AM