一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・内緒

 私のお母さまは手先の器用な方で、季節ごとにカフェカーテンをお仕立てになります。
 キッチン横の小さな出窓に掛けるためのものでございます。
 四季折々、レース編みやクロスステッチ仕様、カットワークを施した刺繍作品などなど、技法も様々、モチーフもデザインも異なったカーテンは、どれもたいそう美しく、思わずうっとりと見とれてしまいます。
 お母さまは私に丁寧に手芸を手ほどきしてくださいます。でも私は、ついついお母さまのお手元を目で追うことに気を取られて、手を休めてしまうのです。
「あなたはどのようなカーテンを作るのかしらね」
 お母さまは歌うような調子で、未来の私の作品に思いを馳せるのですが、私は心の影を抑え込んで、何も答えずそっと微笑むことにしています。
 あぁ、お母さま! 実は私はとても不器用なので、手芸が苦手なのです。
 ですから、カーテンが入り用の際はニ〇リのお世話になろうと思っております。
 
テーマ; カーテン

6/30/2025, 1:30:55 PM