カタカタとキーボードの上で指が踊る。ざわざわと話し声があちこちから飛んでくる会社のオフィスで、こんな資料、何のために作ってるんだと考えてため息が出た。気分転換に窓の外の空を見上げると、どこまでも青くて、高くて広い。俺はこんなに狭い会社に拘束されているのになぁと虚しくなった。だが、仕方ない。生活費のため、生きるためなのだ。気を取り直してデスク上のPCに視線を戻し、中途半端になっている資料作成を再開した。
「おーい、ちょっといい?」
「はーい」
上司が俺を呼ぶ声が聞こえ、席を立つ。メモ帳を持ち、上司の机に向かう。
「昨日出してくれた資料、ここってどういう意味?」
「ああ、それはですね……」
俺の説明に眉を寄せる上司に、ああ、これは残業確定だなと肩を落とす。幾度かのやり取りの末、案の定、資料は再作成となった。
夜、ゾンビのように歩く疲れた顔の人々の横を、足早に通り抜けた。やっと会社という拘束から抜け出したという開放感に、回転が鈍くなっていた頭が動き出した。さあ、今からは俺だけの時間だ。何をしようか。そんなものは決まっている。
見慣れた帰り道をさっさと通り過ぎ、家に到着した。そして風呂、ご飯、その他家事等の生きるための作業を片付け、そしてPCの電源を入れた。
そこには、昨日まで描いていたイラストが広がっていた。ペンタブを手に取り、一心不乱に線を、色を重ねていく。
「やっっとできたぁ……!」
ふう、と息を吐く。ぱっと時計をみると、いつのまにか日付が変わろうとしていた。今日中に完成できるだろうと頑張った甲斐があった。……資料作成がなければ、もっと早く完成していただろうに。
早速、SNSに完成したイラストを投稿してみる。今回は自信作だ。少しくらい反応をもらえたらいいな。正直なところ、俺のイラストはあまり上手くない。SNSのフォロワーだって多くない、というか少ないし、反応だって2桁あるか無いか。でも、それで良いと思う。
ピコン、とSNSの通知が鳴った。イラストをあげるたびにコメントをくれるフォロワーが1人いるのだが、そのフォロワーが今回もコメントをくれるのではないかといつも楽しみにしている。今の通知も、そのフォロワーのものだった。その内容は、今回も俺のイラストを褒めてくれるもの。嬉しくて、思わずニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべてしまった。
さて、と満足した俺は、寝る準備をする。明日から何のイラストを描こうか。そう考えるだけで、明日の仕事も乗り切れるように感じた。
『やりたいこと』
生きる活力になる。
(時間がなくて最後雑になってしまったという言い訳)
6/11/2024, 8:27:47 AM