ようやくこの日がやってきた。
私は馬に跨り、完全に水平線の向こうに落ちようとしない夏の太陽の薄闇の中、あの細い煙を目指して、手綱を握る。
蝉はもう、ヒグラシに切り替わっている。
それにしても、この数年で、この季節はずいぶん暑くなったものだ。
もう必要のないはずの汗が、だらり、と頬をつたう。
なんで、私たちがここへ帰って来れる季節は、こんなにも暑い時期なのか。
昔から暑がりで、汗かきな私には、とても理解できない。
今年だって、この夏は、暑い、暑いと騒ぐ人々を、尻目に、私はのんびりと涼しいところで引きこもっていたというのに。
「さて、みなさん、待ちに待ちましたお盆です。今日から私どもも、お盆休みをいただきます。さあさ、みなみなさま、年に一度の機会です。ぜひご帰省なさってください」
私たちは、毎年の如くそう言われて、馬に乗り、ここへやってきた。
…いや、帰省できるのは嬉しいのだ。私は、家族とも関係が良好だったし、親戚の子や兄妹の子、かつてのご近所の子どもたちが、どのくらい大きくなったかを見守るのも、楽しみだったりする。
しかし、しかしだ。
時期が悪すぎる。
なんで、一年に一度、家に帰れるその時は、こんな夏真っ盛りのお出かけに向いていない日なのだろうか。
汗っかきで、暑がりの、夏嫌いな私にはどうしても納得できない。
もはや姿も匂いも誰にも気づかれないようになったと言っても、気になるのだ。
三つ子の魂百まで。
生前の習慣や好き嫌いは、死後何年経っても、治らないものなのだ。
文句を言いつつも、私は家族に会いたい。
だからその一心で、いつもこの暑い中、季節のない年中快適な天国をわざわざ出て、家へ向かう。
お盆は夏だから。
しょうがないのだ。
日がある程度落ちたというのに、外はまだ暑く蒸している。
毎年のことだ。
毎年のことだが、暑さは年々、酷くなっている気がする。
ただいま、夏。
私は僅かな恨みも込めて、毎年のように呟く。
今年も、夏に帰ってきた。
8/5/2025, 7:19:25 AM