テーマ『叶わぬ夢』
「叶わぬ夢、となったか」
病床に伏せった夫がポツリと呟いた。少しうとうとしかけていた目を開く。「そんなことないわ」。そう言うのは簡単だ。でも夫を蝕む病魔は国一番のお医者様でも匙を投げるほどで、日に日にやせ衰えていく姿を見てもなお言えるほど、私は楽観的にはなれなかった。
「すまない。起こしてしまったな」
「謝ることじゃないわ」
少しかすれた声が、夫の残り時間の少なさを表しているようだった。
夫はこの国の、民の平和を願っていた。戦のない世を目指して、父から受け継いだ国を守るために戦った。戦って戦って、私という妻を娶って、子を授かって、また戦って。そうしてある日、病に倒れた。
「息子たちに、戦のない世を見せたかった」
私の助けを借りて、上体を起こすと窓の外に目を向ける。春の日差しが心地よく、庭には桜の花が咲いている。
だが、きっと夫にはその更に向こうの、戦乱の世が見えているのだろう。
3/17/2025, 12:46:59 PM