雨音が、耳に手を沿えるみたいに優しく、さあっと僕らを包み込む。だから、
「嫌い」
って君の言葉は、聞こえなかったことにするね。
【雨音に包まれていたから】
「大嫌い、どっか行ってよ!」
「聞こえないなあ、雨音がうるさくて」
「うそつき。こんな小雨に、言葉を掻き消す力なんてないよ」
でも、言い訳くらいにはなる。
「泣かないでよ」
「泣いてないっ! 雨のせいだよ!」
「こんな小雨で、そんなに濡れるわけないでしょ」
「うるさいなあ! せっかく雨が降ってるんだから、言い訳くらいさせてよっ!」
なんだ、君だって雨を都合よく言い訳に使うんじゃないか。
「僕のために嘘なんてつかなくていいんだよ。君の本音を聞かせて」
「……私は」
――どこにも、行かないでほしい。
「……ごめん、やっぱ嘘。雨で聞こえなかったことにしてよ」
伝えるつもりでなかったことを言ってしまった、とばかりに、君は首を横に振った。
「無理だよ。こんな小雨に、言葉を掻き消す力なんてない」
「ずるい、さっきと言ってること違うじゃん」
「君こそね」
聞こえるけど聞こえない。聞こえないけど聞こえる。
僕らは、雨音の中ではいくらでも卑怯に、身勝手になれるのだ。それすらも全部、優しく包んでくれるから。
6/12/2025, 6:15:14 AM