cloudy
街で、左手の薬指に指輪を嵌めた男性を見かけた。二人組の男性だった。
ーーいいなあ。
他の人が見たらきっと、既婚者同士の友達だと思うのかもしれない。パパ友というものかも。シルバーリングなんて、僕もそうだけど、個々で特徴が出にくい。お揃いじゃなくても、お揃いに見えることもあるだろう。宝石が付いていれば別だけど。ごくシンプルな、内側に刻印がされているものなら尚更だ。
だけど僕は直感で、彼らは違う、と思った。
少し長い黒髪の彼は、どこかおどおどしている様子で、短髪の彼の背中に半分隠れている。その彼の眼光は穏やかでないほど鋭く、すぐに彼らから視線を外した。
話している内容までは聞こえない。もしかしたら、会社でパワハラに遭ったパパ友の会社に殴り込みに行くのかもしれないし、詐欺られたパパ友と一緒に警察に行く途中かもしれない。女の子に騙されたのかもしれない。嫁に逃げられたのかもしれない。
想像だけが膨らんで行くが、どれも直感で「違う」としか思えない。根拠は無い。証拠もない。
「ーーていう二人を街で見かけたんだ。あの二人、その……付き合ってる……指輪をしてるから、パートナーって言った方が良いのかな。だと思うんだけど」
家に着き、妻の笹倉圭に話す。彼女はおつまみのスルメを食べながら。
「なんとなく分かるよね」
と言った。
「圭も?」
「うん。だから私も和香奈が歩いてるとバレてるんだろうし、その逆もあると思う。秀介と外歩いていて、例えペアルック着ていても、分かる人が見たら夫婦じゃないって気付かれると思う」
「なんでだろうね」
「不思議だよね」
圭が缶ビールを傾け、喉を鳴らして飲み干す。今日は余程仕事で嫌なことがあったらしい。
飲みっぷりの良い彼女を見ながら、彼ら二人にほんのり羨ましい気持ちを抱いていることに、どこかもやもやしていた。
9/22/2025, 11:04:25 PM