たぬたぬちゃがま

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約束だよ。忘れないでね。
そう言い合って、コツンと額をあわせた。
あの時のことを、あなたは覚えているだろうか。

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彼女はとても凛とした人だった。
幼い頃からずっと一緒だった。一緒の布団に入り、一緒におはようと笑ったこともある。
いつからか、彼女は心の奥深くにいた。そばにいたいと願うようになった。それが愛なのか、執着なのか、欲なのか、もうわからなかった。
ただ誰かのものになると想像しただけで黒い感情が腹の中に積もっていった。

ずっと一緒にいたい。彼女に笑ってほしい。そばを離れたくない。泣かせたくない。
それはぐちゃぐちゃにかき混ぜた残飯のようで、気持ち悪い。彼女を想う気持ちが気色悪くなっていくような感覚が、ひどく彼女を侮辱している気がした。

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まただ。ふと見た時、悲しそうな、寂しそうな顔をする。大人ぶっているくせに、こういう時見せる顔は昔のままで。いつまでも泣いてついてきたあの顔で。
身長だってとうに抜かしたのに、まだめそめそとしている。繊細というか、女々しいというか、面倒臭いというか。
今更何をというのが、私の一番の気持ちなのに。

「ねぇ。」
「ん?」
「かがんで。」
「……?」
言われたとおり屈んだ彼の頬を両手で思いっきり引っ張った。かたい。昔はもっとふくふくでもちもちだったのに。
「いてててててて!!?」
手を離すと、彼は私の行動が理解できないらしく、自分の頬をさすりながら呆然としている。
「あなたの前にいるのは、私。わかってんの?」
「……??」
理解が追いつかないのか、全くわからないのか、呆然とした顔をしたままだ。
「……。」
なんか、無性にイラっとした。
「いでててててて!!!」
もう一度頬を引っ張ってやる。絶対忘れているのを確信した私は渾身の力を込めてやった。

「うそつき。忘れないでねって言ったでしょう?」
幼い時の約束。私の心にずっと根差した、一緒だよという約束。
もう離れないように、私は彼の手をぎゅっと握った。


【二人だけの。】

7/16/2025, 8:20:10 AM