放課後
放課後の教室に、
私は独り佇む。
先程迄、子供達の元気な笑い声が、
響き渡っていたこの場所も、
今は時が止まったかのように、
ひっそりと静まり返っている。
夕日が教室に射し込む。
壁も机も私も、夕焼け色に染まる。
子供達は今頃、家に帰り、
家族と共に、温かく穏やかな時を、
過ごしているのだろう。
だが、私は独りきり。
この世の中から、
一人取り残されている。
…そんな気がした。
しかし、こんな未熟な私を、
子供達は『先生』と呼び、
慕ってくれている。
輝く瞳と無邪気な笑顔で、
笑い掛けてくれる。
だから、私は。
私を雁字搦めにする、
苦しい想い出も。悲しい過去も。
辛い別れの記憶も。死を望む衝動も。
全ての苦悩を笑顔で隠し、
子供達の前に立つ。
だが…本当は、
全てを捨てて、
過去から、逃げ出したい。
カッターナイフに手が伸びる。
ゆっくりと刃を自らに向ける。
冷たい銀の煌めきが、
私の首に近付く。
ふと、
子供達が下校したあとの、
私しか居ない放課後の教室に、
子供達の笑い声が聞こえた。
私は、静かに、
カッターナイフを下ろした。
『明日の授業の準備を、
しなければ。』
少しだけ震えた私の声が、
私しか居ない放課後の教室に、
静かに響いた。
10/12/2024, 5:55:24 PM