澄み切った空気は少しだけ舌先が痺れるような味がする。呑み込む唾液も温度がない。通り過ぎる笑い声を遮りたくて冷えきった耳朶を守る素振りで耳当てを装着した。ホッと息を吐く。溶けていく白い靄は塵ひとつない空気を汚しているようで気分がいい。自分の存在をようやく主張できた気がしたのだ。ちっぽけな解放感は足取りを軽くさせて、子供のように霜柱を踏みこませる。柔らかな氷の砕ける音は耳あてが邪魔で聞こえない。けれど靴裏から伝わってくる、サクサクと潰れていく感触だけでも十分に満たされてしまった。見慣れた光景を忘れたようにはしゃいで、子どもの自分を取り戻していく。なんとなく耳当てを外した。積もった雪を集めて笑い合う子どもたちの声は優しく鼓膜を揺らす。耳朶は冷たくなっていたが寒くはなかった。ゆったりとした時間を味わいながら漂うようにまた歩いた。
1/5/2023, 12:56:11 PM