青波零也

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 Xはぼんやりしているようで極めて頭の回転が速い男であることは、そろそろわかりはじめていた。
 まあ、そうでもなきゃあんな初見殺しの連続である『異界』の観測なんてままならない。『潜航』するのが俺たち研究者の誰かであったなら、Xほど長生きはできなかったに違いない。
 特にXが得意としているのは、「ルールを見いだす」ことだ。傍目には混沌としていて理不尽に見えても、大概の『異界』には暗黙のルールがあり、Xは瞬時にそれを見極めて適切な行動を判断する。一体どこで育って何を食えばそんな風になれるんだか。
 ただ、その一方で、Xには弱点がいくつかある。
「あの」
 リーダーから発言を許されているXがぽつりと言う。茫洋とした目がこちらに向けられて。
「バレンタインデーって、どういう行事なのですか」
「X、そりゃさすがに世間に興味がなさすぎますよ」
「そう、ですか……?」
 ぽやっとした顔でクエスチョンマークを浮かべるXに、思わず深々と溜息をつく。
 このおっさん、とにかくものを知らないんだよな。一応娑婆にいた時代の方が長いはずなのに、いったいどうやって生きてきたんだか。


20250306 「question」

3/5/2025, 11:23:43 PM