コノハ

Open App

【紅茶の香り】

私は紅茶が好き。朝目を覚ますと部屋の中にほのかに茶葉の香りが流れてくる。まだ眠気の残る瞼を擦りながら私はベッドから起き上がった。欠伸をひとつ、背伸びをする。さて、起きなくちゃ。ベッドを降りて私は寝室のドアを開ける。途端、紅茶のいい匂いが私の鼻を占領する。

「おはよう」

"おはよう"。リビングから柔らかく優しい声が私の耳に届けられる。
声の方に視線を向ければ、暖かな陽だまりのような微笑みが私に注がれた。
それに私もおはようと微笑んで大好きな彼の隣に腰を下ろした。

「今日はどうする?」
「うーん…最近寒くなってきたから、ミルクティーホットがいいかな」
「わかった」

そう言えば、彼は慣れた手付きで二つ用意されたマグカップに湯気の立ち上る紅茶を丁寧に注ぎ、牛乳と少しの蜂蜜を淹れてくれた。

「できたよ」
「ありがとう」

私は彼からカップを受け取るとそっと息を何度か吹きかけると口へと運んだ。
たちまち口の中は温かな紅茶と牛乳と蜂蜜を含んだ優しいあまみが広がって喉の奥へと流れていった。

「おいしい…君は紅茶を淹れるのが上手だね」
「そう?」

そう言って彼は少し照れくさそうに笑うと自分もカップに口をつけた。
私の大好きな彼。いつも一緒に過ごした次の日の朝は、必ず私より早く起きて、私が起きる頃に合わせて紅茶の準備をしてくれてる。だけど、本当は知ってるの。あなたが紅茶よりコーヒーが好きなこと。それなのに紅茶が好きな私に合わせて、私のために紅茶を淹れてくれる。だからかな。つい口に出しちゃった。

「…ねぇ、これからもずっと私のために紅茶を淹れてくれる?」
「いいよ」
「…え?」
「え?って、俺今プロポーズされたんじゃないの?」
「ぷろ…、もしかして、口に出てた?」
「うん」
「…」

やってしまった。私はたまに無意識に言葉が口から出ていってしまう。今も心の中で思ったつもりだったのに。

「ごめん、いつもの。だから今のは忘れて」
「悪いけど、それは無理かな」
「え?」
「だって、俺もあんたとずっと一緒にいたいし。だから、先に言われちゃったけど。」
「…っ」
「…毎朝、何時だってあんたに紅茶を淹れる役目は俺だけにして。ずっと一緒にいよう?」


…な~んて、言われてみたい。 

10/27/2024, 12:13:04 PM