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春の風が優しく吹いている頃、私は揺籠の中で揺れていた。特にやる事もなくそれが暇という事を知らない私は不快と感じる事なく来る日も来る日も寝て起きて食べてまた寝るというサイクルを繰り返していた。
ずっとこのままでいいなと思い始めた頃、私は己の身長くらいもある大きい腕に抱き抱えられた。
このままだと連れ去られてしまうかもしれない。
そう思った私は堪らず大声をあげて泣いた。
すると大きい腕の男はワタワタと忙しなく顔を変え奇声を発してあやそうとして来た。
それがより一層不気味に思えてまた泣き出して、するとあやすことを諦めた男は急いで目的地らしい場所へ向かって駆けていった。
しばらくすると私の視界はいつも見た色の乏しい空間ではなく様々な色に富んだ空間を映していた。
それだけでなく知らぬ音、少し湿っている空気、見たことのない動物。
その全てが私を感動へと導いた。
声も出さず涙を流す私を胸に男は
「お前にこれが見せたかったんだ」と言い聞かせて言った。
その美しき光景は私はその男が父と知り自分で歩み言葉を発して1人で生きていける年になってもまだ鮮烈に一つの大切なフィルムの様に脳裏に焼き付いていた。
故郷を離れ、仕事に行っていた私は再び故郷に帰って今度は自分の足で歩いてその光景を見て息を吸った。

お題忘れられない、いつまでも
この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
更新がかなり遅れてしまって申し訳ありませんでした。これからもまだまだ半人前ですが私の作品に目を通していただけるとありがたいです。

5/9/2024, 2:06:13 PM