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お題:逆光

蝉の鳴くうだるような夏の日のこと。
僕はデジカメを持った彼女と共に歩いていた。

僕らが通う大学から少ししたところに、大きな池のある公園がある。
そこは桜の名所なのだが、夏場はその木が木陰を作るため理想的な散歩コースなのだ。

そんなこんなで池の周りを歩いているが、彼女は一向に写真を撮らない。
デジカメを握りしめたまま僕と並んで歩くだけだった。

そろそろ3周目かなぁ。
僕は隣を見て言った。

「どうしたの?写真、撮らないの?」
「……うーん、あのさ。実はカメラ触ったことないの。」

首に下げたデジカメを撫でながら彼女は言った。

「でもせっかく祐介に貰ったなら、素敵な写真が撮りたいなって。それでパソコンで調べたの。」

写真の撮り方。
彼女は呟いた。

曰く調べた時に出てきた見本の写真たちに圧倒されたとのこと。
自信を無くしてしまったらしい。

「なんか、言葉にしづらいんだけど……すごく綺麗だった。」

日差しの元で足を止め、彼女は言う。
太陽が肌をジリジリと焼いた。

「まあ、あんまり考えずに撮ったらいいよ。」
「それができればね……。」

彼女が天を仰ぐ。
どんな表情をしてるのだろう。

「ほら、思い出でも撮れればって思って買ったやつだからさ。それ。僕たちが振り返って見れればいいんだよ。」

家電量販店の型落ち値引き品をプレゼントした罪悪感から、僕は早口でそう言った。

すると、空を見ていた彼女が突然こっちを見た。
握りしめたカメラをこちらに向け唐突にシャッターを切る。

パシャリ。

なぜか焚かれたフラッシュが少し眩しい。
太陽を背にしてるからだろうか。

カメラずらして顔を覗かせた彼女が少し悪戯っぽく笑う。

「なら、いろいろ撮ろうかな。最初の1枚、見せてあげる。」

カメラを操作している彼女は輝いて見えた。
そんな彼女の表情を見ると、余計に罪悪感が増す。
今度はちゃんと準備しよう。

「うーん……。」

しばらくカメラをいじっていた彼女は、スッとカメラを握り直した。

「見せてくれるんじゃなかったの?」

彼女は少し悩んだ後そっぽを向いた。

「もう少しいいの撮れたらにする。」

1/24/2023, 12:36:13 PM