月下の胡蝶

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お題《日差し》


水辺に差し込む日差し。生命の煌めきがあふれた水に触れ、手をゆっくりひたす。


血に濡れた手が清められただけでなく、身体に残る疲労さえも綺麗さっぱり跡形もなく消え去る。少年は驚いたように手をまじまじと見つめ、呟いた。


「あの風の噂は本当だったのか。日輪の泉――あの天に輝く光玉から流れた雫から、生まれた治癒の力を宿したっていう」


烏みたいな格好をした少年は影の任務により血に濡れていくうちに、道中倒れ込んでしまった。


――もうこのままずっと目覚めなければいいと思った。大切な女性を戦で亡くし、“瞳が気に入った”と拾われ夜に沈んでゆく生き方は、いつの間にか心を殺し。



きっと誰も許してくれない。


どんな悲劇も、最後に選択するのは自分なのだから。被害者面なんかしていい理由にはならない――。



でも日輪の声と光に導かれて、ここへたどり着いた。さわさわ揺れる葉擦れの音が心地いい。誰がここへ呼んだのかわからないが、少年は。



「……もう少しだけ生きてみるよ。あともう少しだけ待ってて、僕の大切な君」



藤の君。


もしかして、君がくれた光なのかもしれないから。



だったら生きてみるしかないだろう。



これは、覚悟だ――。


7/2/2022, 11:12:24 AM