気温の乱高下のせいで、いつの間にか秋が来て、いつの間にか秋が終わる気がする昨今です。
なお東京の週間予報によれば、11月の最初頃に、まさかの夏日数歩手前の最高気温という予想。
今年も重ね着による管理テクが試されそうです。
さてそんな最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社は、そこそこ涼しくて良い天気。
稲荷神社に住まう稲荷狐の一家の中の、銀色に輝く2本尻尾のおばあちゃん狐が、
若くて美しい巫女の姿に化けて、抹茶一服。
狐千家の流派でもって、茶会を開いておりました。
そうです。おもてなしです。
おばあちゃん狐が昔勤務しておった「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織に、
世界と世界を繋ぐ航路上の交通事故ということで宇宙イカが搬送されて、治療を受けて、
そろそろ帰るそうなので、
宇宙イカの盟友たる宇宙タコ——世界線管理局法務部のトップが、最後のおもてなしとして、宇宙イカを「こっち」の世界に呼んだのです。
タコとイカが狐の茶会に招かれるってシュール。
はい、細かいことは、気にしてはなりません。
なおタコイカに同行して、別世界出身の人間と、人間に変身したドラゴン部門長も居ます。
更にシュール。はい、気にしてはなりません。
「ああ、なんて静かで、落ち着く空間かしら」
うにょんうにょん。3個くらい前のお題「揺れる羽根」の関係で、有翼種族な宇宙イカです。
「これがこの世界の、ワビサビという空間なのね」
どうやら一服貰う前から、静寂に整えられた空間を気に入った様子。
すべてを記憶に残すべく、足を広げてあっちこっち、おばあちゃん狐の邪魔にならない程度に、
正座の真似事しつつ、観測しておりました。
ところでドラゴン、正座なんて文化、ありません。
人間に変身したからって、正座も長時間耐えられるってワケじゃ、ないのです。
「……」
両足がピリピリ痺れておるのを、別世界出身人間に視線でチラリ、伝えます。
人間はすました顔して、穏やかにニッコリ。
事前に、藤森なる雪国出身者と高葉井なる東京都民から、正座のコツを聞いておったのです。
「なるほど。これが、抹茶」
うにょんうにょん、うにょんうにょん。
おばあちゃん狐から渡された、美しいキツネ色のお椀を2本の触腕で大事に持って、
おもてなしを受けた宇宙イカは、抹茶をよくよく観察します。抹茶を摂取するのは初めてなのです。
「この体で飲むのは、ちょっと、難しいわねぇ」
うにょんうにょん、うにょんうにょん。
おばあちゃん狐からおもてなしを受けた宇宙イカ、
お椀をどうやって口に持ってって、抹茶をどうやって摂取しようか、ひとしきり考えて考えて、
最終的に人間っぽいナニカに化けて、「よしよし。これで、良いわ」。
世界線管理局で治療を受けて、帰るまでの最後の思い出として、抹茶をよくよく、堪能しました。
「面白い……おもしろいわ。これが、この世界」
うにょうにょ宇宙イカ、よほど抹茶のおもてなしがお気に召したのか、シモベみたいな【みょんみょん】を周囲に召喚して大満足。
【ぎょんぎょん】は宇宙イカの周囲でピョコピョコ踊って、宇宙イカをたたえ、抹茶をたたえます。
「そんなに気に入ったんなら、そのお椀と茶菓子セット、記念の土産にもっておいき」
おばあちゃん狐が言いますと、宇宙イカの満足と幸福は最高潮!【うにょにょん】も光り輝きます。
「感謝します稲荷狐。ワタクシは今日のおもてなしを、決して、けっして忘れないでしょう」
「アンタ、世界と世界、普通に行き来できるんだろう?また飲みたくなったら、予約するんだよ。
その時は金額に応じて、良い茶を出してやるから」
うにょうにょ、コンコン。
それからだいたい1時間か2時間くらい、不思議なお茶会は続きまして、おもてなしも大成功。
宇宙イカは大満足で帰ってゆきましたが、
「ぐ……ぅうッ! ぐあぁ!!」
「駄目です部長、無理に立とうとしたら、」
「くぅうぅぅ!!」
正座にちっとも慣れてないドラゴン部門長は、足がすっかり痺れてしまって、コロン。
当分、立てませんでしたとさ。
10/29/2025, 4:44:24 AM