【ぬるい炭酸と、無口な君】
漫画だらけの書斎に、僕と君だけ。この空間が好きだった。特別だった。
普段の君はクラスの中心でよく騒いだりふざけ合っている。でも漫画を読む時だけは無口なことを他のみんなは知らない。教室の中で交わることのない光の君と影の僕だがこの書斎でだけは同じ光度を保っていた。
毎週水曜にだけ君は僕の書斎にきた。特段話すこともなくただただ漫画を読んでいた。それでも心地よかった。それだけで満足だった。
めくる音と滴る音、蝉の声と秒針。受動的な音だけが炭酸をぬるくしていった。
いつからだろう僕は、漫画を読めなくなってしまった。それは君と僕の、終わりを告げていたんだ。
嫌に蒸し暑い夕方、結露よりも飲み口が気になる。
決して上がることない目線に期待して、僕は夏の均衡を破ってしまった。
光が眩しくても影が濃くてもいけない、そんな日々を自ら壊してやっと気づく。独りよがりの恋。
8/4/2025, 5:23:28 AM