香草

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「大好きな君に」

今日は小さな声で話します。
なんでそんな驚いた顔をするんだ、私だって小さな声で話せるんだよ。
そうだね。無理もないか。
いつも怒鳴っているイメージしかないのかもね。
怖くてうるさくて、私のことが嫌いな人もいっぱいいるんだろうね。歳を食ったおじさんというだけで世間は冷たい。
私の大声は耳が聞こえないからなんだ。
難しいことは言わないが人よりも音を拾えない。だから自然と大きな声で話してしまうんだよ。
間違ったことを言っていないか、きちんと伝わるように話せているか、自分でも確認しながら話すから大きな声になってしまう。
ああ、いけない。また大声になっていたね。
これから話す内容はこれまでの人生で何度も何度も考えていたことだ。確認する必要もないくらい何度も心の中でつぶやいてきた言葉だ。君たちだけに伝えたいから小さな声で話します。
風の音が聞きたい。
電灯の音が聞きたい。
遠くの鳥の声が聞きたい。
虫の飛ぶ音が聞きたい。
誰かが呟いた本音を聞きたい。
誰かが優しく笑った声が聞きたい。
君たちにはこんな小さな音や声を聞き漏らさない人生を歩んで欲しい。
私が聞こえない代わりにたくさん聞いてくれ。そしていつかまた会えた時にこれまでどんな音や声を聞いてきたのか教えてくれ。
おいおい泣くのは卒業式が終わってからにしなさい。まだ早いだろう。
最後に、卒業おめでとう。

3/4/2026, 4:58:56 PM