姉のなぎさは、上京して一人暮らしをしているときに、大きな地震に見舞われた。
しばらく停電が続いたほどの規模の被災で、暗がりの中何日も不安に過ごしていたと思うと俺は気が触れるかと思った。
俺はシスコンだ。なぎさのことを偏愛している。
二つ年上のなぎさは昔から可愛くて、自慢の姉だった。無邪気で優しくて人を疑うことを知らないーー控えめに言って、天使。
そんななぎさだから、小さい頃から周りが放っておかなかった。俺は、小学校の頃からからなぎさに近づく男は排除してきた。気を引きたくて、なぎさをいじめようとしたガキどもはトイレの個室のドアに細工して閉じ込め、上からバケツ水をぶちまけてやった。焼却炉に、うちばきや学習道具もぶち込んでやると、気味悪がってそれ以上なぎさに関わらなくなった。
もちろん、尻尾なんか掴ませやしない。俺はそんなヘマはしない。
中学、高校とも、そんなふうに陰になり俺は不埒な輩を駆逐してきた。その頃になると、携帯などのツールを持てるようになったから、監視や駆除は前よりも楽になった。
俺の尽力あって、姉の貞操は清らかに守られた。ふたつ違いなので、姉が先に卒業してしまい、寂しかったが、致し方ない。
大学進学を俺は心待ちにしていた。
親元を離れ上京して、姉と二人暮らしをするのだと、以前から計画していた。誰にも邪魔されない、二人だけのパラダイスーー姉を、独り占めできる。ずっと。
考えるだけで、胸が震えた。
……俺はヤバいやつなのかも知れない。姉が好きすぎて、頭がイカれてるのかも知れない。
でも、それもいい。
一つだけ失敗したと思っているのは、姉が先に大学進学を決め、2年ほど一人暮らしをした時に、恋人ができたらしいこと。
姉は家族には打ち明けなかったが、ーー短い間で破局したみたいだが、それでも俺は悔やんだ。特定の男と親密な関係にさせてしまうなんて、いくら姉の元へ駆けつけられなかったとはいえ、なんたる失策。
姉が誰か他の男の腕に抱かれてると思うと、おぞけがする。ーーいや、姉のことだ、そう易々と恋人に体を許すとは思えない。
真面目で清廉な人なんだ。
「マサムネ、なにぼーっとしてるの」
なぎさが俺に尋ねる。
いや、と俺はかぶりを振る。
「別になんでも」
俺は答える。そして、なぎさを見ながら思うのだ。
……いざとなれば、今は、産婦人科で処女膜再生手術とかも簡単にやってくれるだろうし。大丈夫だろう。
「なんでもないよ」
俺はなぎさに笑いかけた。
#暗がりの中で
「柔らかな光4」
10/28/2024, 2:26:07 PM