海外でも日本でも、西の海辺で見る日の入りは格別だった。
海に呑み込まれるその時まで、ずうっと眺め続けたって全く飽きない。思ったよりも速く進む太陽に、引き摺られるように変わっていく空の色が面白くて、一時間も二時間も見続けることなんてざらにある。
「……寒くない?それ」
「防寒対策してくもん」
「そこまでするのか……」
僕は無理かも、と苦い顔をする君は出不精で寒がりで、どう考えても日の入りウォッチ向きじゃない。知ってるよそんなの。だから一緒に、なんて誘い方は絶対しないから安心してほしいと笑えば、あからさまにほっとされて思わず吹き出しそうになる。
「ふふ、ふ。可愛いね」
「うるせー」
付き合えなくて悪いと思ってるんだよこれでも。ぼそぼそと喋る彼は、旅好きの私をインドアに留めるのが心苦しいのだと小さく呟く。気にしなくてもいいのに。私は好きで一緒に部屋の中にいるのだからと教えても、納得いかないと顔を顰めるところが本当に優しくて、融通がきかなくて、可愛いなと思う。
「いいんだよ、ホントに」
その代わり、私の旅の話を聞いてよ。息を呑む程美しい日没を見たこととか、暮れゆく濃紫の空が吸い込まれそうで素敵だったこととか。一緒に行けない代わりに沢山喋るからと微笑めば、面食らったように瞬く君がええ……、と零して。
「そんなんでいいの」
「いいよ。でも詰まんなくても聞いてね」
「いいけど……いっつも面白いから僕は困んないし」
「そうなの?」
「そうなの」
じゃあWIN WINってやつだね、とちょっと緩んだ頬のまま彼の手を握れば、何その顔と呆れたように溜息を吐かれる。
「可愛い顔してるの分かってる?」
「ええー……」
趣味悪いよと呟いた声は、多分思ったよりずっと困った色を含んでたんだろう。それをちょっと嬉しそうに見ている君は意地悪で、でも子供みたいで可愛かったから、頬をぎゅっと抓るだけで取り敢えず手打ちにしてあげた。
お題:沈む夕日
4/8/2023, 7:25:26 AM