諏訪くん、その声に振り返るとき、きゅ、と口を結ぶ癖がついた。気づかれたくなくて、いつもと同じような顔をして振り返る「今日の隊長会議、諏訪くんがファシリだよね」「あー、だっけか」後ろ髪を掻きながら思い出すような素振りを見せる。足を止めた諏訪に追いついたナマエが、抱えた書類に目を通しながら横に並ぶ「今日、忍田さん遅れるみたいだから、これも諏訪くんからお願いしたくて」ぴら、と手渡された資料には『春休み中に関する注意喚起』とある。書かれている内容を斜めに読んで「俺も春休み対象者なんだがな」「そういえばそうね」学生が大半のボーダー内では、長期休み前に公序良俗を説かれる。もはや恒例行事「ナマエさんが話せば?」「えー?私は議事担当だから」困ったように笑うその顔に胸が締め付けられる「あのさ、会議の後って空いてる?」「今日?うん、特に用事は」「久しぶりに飲み、行きません?」「いいけど…敬語になったあたり、奢らせようとしてる?」次はイタズラっぽく笑う顔、くるくると変わる表情に諏訪の口元も緩む「俺、年下ですよ?」「どの口が言ってるのよ。東くんでも呼ぼうかな」「いや」思わず出た素直な言葉に口を噤む諏訪、どうしたのかと首を傾げる彼女「いや…サシで飲み行こう、割り勘で」「諏訪くんそれ、期待しちゃうよ?」余裕そうにはにかむ彼女が狡い「期待してていいっすよ」絞り出した声、諏訪がそそくさと歩き出す、首元まで赤くなった後ろ姿。
3/30/2024, 1:11:29 PM