音のない悲鳴が棘になって切りつけあって朝の通勤列車は透明な血があちこちで流れている。
そこにいたら身がもたないから、スマホの小さな画面に自我を逃避させる。巣穴に逃れて危機が去るのを待つネズミのように。
極彩色の車内広告ばかりが馬鹿騒ぎでぐるぐる画面が切り替わり、乗客の疲れた顔面に塗りたくられて知らぬ間に極彩色に洗脳されていく。
「もう無理です」と私が言ったら、医者はがくれたのは錠剤サイズの洗濯機。
「飲み込むと楽になるよ」
小指の爪サイズの白い家電の中でめちゃくちゃに水が渦巻いている。心の混乱を動力源に回るドラム式洗濯機。
駅のホームで耐えかねて飲み込んだら、なるほど透明な切り傷からは血が流れなくなって、ついでに自分の名前まで忘れちゃった!
【タイトル:透明な殺人事件】
【お題:誰もがみんな】
2/10/2024, 2:02:29 PM