しるべにねがうは

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ダンスや演舞ってのは、才能や努力の面もさることながら、まず人体の使い方を計算し尽くされているものらしい。
無理のない、体を隅々まで意識して鍛えられる動き。
脳から運動神経を経た命令が織りなす芸術。

逆に言えば、体を鍛え尽くし最善を最短を最速を突き詰めたなら最終的に舞っているようにも見える、という話で。

対峙している怨霊だか妖やらの血飛沫を浴びながら一切攻め手を緩めないお嬢の動きがあんまりにも軽やかで優美に見える、というのは変な事ではないんだろう。

「あの髪の量でよくもまぁ視界が遮られないもんだな…」
実際遮られてはいるだろうが。俺はお嬢の右目を見た事がない。
いつも前髪で隠されている。そのセットを任せられるのは俺ではないのでよくわからん。どうなってんだあれ。

常時オバケホイホイの霊媒体質の俺だが(最近知った。何それ怖い)今は結界の中であるので大丈夫との事で(よくわからん。見えないし)とりあえず小休止である。
この間までは「そんなこと言って俺をなんか…騙くらかして…財産とか無いんですけど…!?怪しい宗教に引き摺り込もうとしてるんじゃ無いっスか!?ァアン!?」って感じだったけど真面目にやばい目に遭って九死に一生だったから信じた。まだちょっと疑ってるけど。とりあえずしばらくはあのお嬢様と過ごすしか無いらしい。
どういう訳だよ。なんか…吸引力の変わらない掃除機の如くに周囲のそういうものを引き寄せているらしい、俺は。
で、あのお嬢様はそれをなんかうまいこと処理してるんだと。
どういう仕組みかはマジでしらん。俺に聞くな。

今日も今日とて、帰り道歩いていたらいつのまにか迷い込んだ廃墟にておばけ退治である。前までこんなことなかったと思うんですけど。ちょっと迷子になりやすいのはあったけど無事だったし。
悪化してないスかね。
むしろお嬢様の方じゃないスかね、憑いてるの。
俺の方が巻き込まれてんじゃないの。どうなの。
いやでもまたオバケに追いかけられて鬼ごっこは嫌なんだよ。
俺だけじゃなんとも出来んし。まだオバケどうにかできるお嬢と一緒に巻き込まれた方がマシ。

うん、現状維持。

「どうしたんですかそんな百面相して」
「……終わったん?」
「恙なく」
「帰れんの?」
「多分すぐ来るでしょう、石蕗が」
「毎回思うけどなんで石蕗さんすぐ来んの…?携帯圏外だよな?」
「GPSがロストした瞬間連絡がいくようになってるそうですわ」
「圏外になんの逆手にとって!?頭いいなそれ」
「ふふん、笹本はなんでも出来るんですのよ」
「あの婆さんそんなハイテクなん!?」
「リャインも使いこなしていますのよ、スタンプとか」
「それくらいなら俺だってできるが?」
「通話だって出来ますのよ」
「俺だってできるが?」
逆にお嬢は出来ないのか。問えばちょっとまごついて答えるお嬢。
「だって壊れてしまいますし。触ってると動かなくなりますし」
何も変なことしてないのに、と言うが何かしたやつしか言わないからなそれ。意外と機械音痴なのかこの人。
「俺はリャインに加えてリャンスタも出来るぞ」
「そ、そんな、ハイテクな!!」
「ハイテクか…?」

他人の写真、時々映ってんだよな小さい奴が。そういうのみつけんのちょっと好きだった。石蕗さんから「それ向こうからちょっかいかけられてるんですよ向こうから全部見えてますしその写真通して貴方を取り込もうとしてるんで即刻やめてください」って言われたからやめた。ちょっと泣いた。

「ご教授願いますわ、ご飯の美味しい撮り方を」
「そこまで!?」
「笹本のご飯の写真をずっと撮ろうとしていますのよ、でも何故か!美味しそうに見えないんですの!!」
「いやでも俺撮る方よくわからん…事ない!わかるわかる俺はプロだぜ雑誌に載ったことも1度や2度じゃねぇ!!」
「心強いですわ〜!」

突然の懇願にビビりつつ本当のことが溢れつつだったがいつもすました顔のお嬢から尊敬の目を向けられる機会を逃す俺じゃない。
いやだって今のところ俺お嬢に胸張れる要素ゼロだぜ?
オバケの祓える?処理?浄化?はお嬢しかできないし勉強もそこそこだし特技っぽい特技無いし。人に言えない特技はそれこれオバケが見えるだった訳だがそれもお嬢に比べるとそこまでらしいし。
「生まれた時から見えてるなら相当ですよ」って石蕗さんにフォローされたけどそうじゃない。

とりあえず機械に疎くてネットもそこまでなら、飯テロ的写真を勉強するのは遅くないはず。雑誌に載ったことねぇけど。

「では私は……そうですね、体術訓練に付き合います」
「………………いやなんで?」
「私が学生生活つきっきりというわけにも行きませんし、護符でなんとかなる間はいいんですけどそのうち独り立ちですからね…ここまでの吸引体質だと思っていなかった我々にも非がありますので、早々にびしばしといかねばもは考えていたのですよ」
「いやほらカメラの使い方くらいならそんなしなくていいんだって」
「そうはいきませんわ、等価交換って大事ですもの」
「アンタにとって飯テロ写真ってそんな重いのかよ!?」
「めしてろ?はわかりませんけれど。とりあえず急務でしたのよ訓練は。ちょうど渡りに船ですわね、私がつけば石蕗もいますし」
「それどういう意味?俺あの剣道居合柔道弓道オールラウンダー達人に死ぬまでしごかれるって話?」
「話が早くて助かります」
「やーーーだーーーーー!!!」
「遅かれ早かれでしたのよ、話を切り出すタイミングが今だっただけですし」
「じゃあカメラ教えない!!ほら訓練の話ナシだろ?」
「訓練は決まっていますの。私が参加するか否かでしたのよ」
「魔王の訓練に死神がついただけじゃん!!!」
「ご心配無く!五段くらい貴方を強くします!」
「やだーーーーーーーー!!!」


その後。迎えに来てくれた石蕗にことの次第を説明し、マジで魔王と死神のダッグが誕生した。めちゃくちゃ扱かれた。
その甲斐あってか、割と足運びと身のこなしはなかなかマシになった。

後日談。
「お嬢様、今朝忘れていったでしょう、こちら」
「……通りで鞄の中に無いわけですね」
「なぁGPSって誰のが把握されてんの?俺?」
「尾上くんのは職員室ですよ、クラス全員分帰りの会で返すはずだったのに忘れてしまっていたそうで」
「石蕗さんその話ぶりだと一回学校行ったんだよな?そんで俺たち確か学校からそこそこ離れた所にいたと思うんだけどどうやって辿り着いたの?」
「ふふん、石蕗は優秀なので!」
「それで片付けていい奴じゃ無いと思うんだけどなぁ!」
「心配しなくても私物にGPS仕込んだりとかしてませんよ」
「本当に!?信じていいやつ!?」
「嘘なんてつきませんよ」
「ありがとー!!」

安心しました!と全面に出して車に乗り込んでいく少年。
いつも通りスカートの端が引っかからないよう気をつけながら乗り込むお嬢様。2人とも多少の怪我はあるようだが、まぁ手当でどうにかなる範囲である。良しとしよう。
ドアを閉めて、運転席に乗り込む。安全運転で柳谷邸までゆっくりと。5分ほどで後部座席から寝息が二つ。当たり前か。
朝から学校に行って、一日中授業を受けてからの遭難である。
疲れない方が無理だ。ルームミラー越しに穏やかな寝顔を確認してすぐ運転に集中を戻す。もう10分ほど遠回りして帰ろうか。連絡すれば了承の返事。流石笹本。

一息ついたところで先ほどの言葉を思い出す。
『私物にGPS仕込んだりとかしてませんよ』。
まぁ間違いではない。
「「私物には」仕込んでなぞおりませんとも」

9/8/2024, 1:47:18 AM