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 記憶のランタン


「記憶のランタンって知ってる?」
「なんだそれ」
「必要としてる人のもとにどこからともなく現れる不思議なランタン。そのランタンは人の記憶を食べちゃうんだって」

今日部活で話題に上がってさ〜、なんて軽い気持ちで口に出せば意外にもTは話に乗ってきた。

「食べる?どうやって」
「忘れたいことを口にしながら灯して、灯したそれを消す。それだけでランタンが記憶を食べてくれるらしい」
「それ食べてくれるというより、食べさせてないか?」
「細かいことはいいんだよ。どうせ都市伝説みたいなもので本当にあるかもわからないんだからさ」
「ふーん、お前はそんなランタンに食べさせたい記憶でもあるのか?」
「んー、オレはないかな。それより昨日Tくんの前で盛大に転けたのは恥ずかしいからTくんに使ってもらいたいよ」
「ああ、あれは随分派手にいったよな」
「Tくんずっと笑ってたもんね」

思い出しているのか楽しそうに笑うTにわざと不機嫌です、という顔を作ってやる。そんな些細な抵抗でTが笑うのをやめることはないのだけれど。

「あーもう、オレはいいから。Tくんは忘れたいこととかないの?」
「うーん、そのランタンは記憶を取り戻すことは出来るのか?」
「出来ないんだって。ランタンを使った瞬間にランタン自体が消えて、使ったことすら忘れるらしい」
「そうなのか、じゃあ俺も忘れたいことはないかな。一時的に忘れたいと思っても本当に忘れてしまったらいつか後悔しそうだ」
「忘れたことすら忘れるのに?」
「そうだな。それでも俺は憶えていたいよ」

ふと向けられたTの表情が思っていたよりもずっと柔らかくて、何か言おうとしたはずなのに声が出なかった。
この柔らかさはきっと誰にでも向けられるものだ。それでも、できることなら。オレに向けられる瞬間が一番多ければいい、なんて思ってしまう。

「そのランタンは色んな人の記憶が詰まってるってことか」
「…何だか夢があるよね」
「何かの間違いで記憶が零れたら大変そうだ」
「急に現実に戻すじゃん。他人に忘れたい記憶を見られるのだけは勘弁だね」
「それが怖いからやっぱりランタンは使わないだろうな」
「そんなの言われたらオレも使えないじゃん」
「お前だって使う予定はないんだろ?なら問題ないじゃないか」
「今はなくてもいつか忘れたいことができるかもしれないじゃん」
「その時は使えばいいんじゃないか?ランタンが現れたらだけどな」
「そこだよね〜」

それからランタンの話が終わったあとも、いつも通り他愛のない話を続けた。Tは相変わらず楽しそうに笑っていた。

例えば、記憶のランタンにこの気持ちを吐き出せば、オレはずっとこいつの隣で笑っていられるんだろうか。
なんて詮もないことを考えてしまうくらいには、どうしようもなく、オレはこいつに恋をしていた。



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-余談-

『無人島にいくならば』2025.10.24

と同じ2人だったりします。
完全に別軸として書いている為、話同士の繋がりは無く、単体で読めるようになっています

11/19/2025, 7:13:09 AM