※「嵐が来ようとも」
を先に読むことをお勧めします。
学校からの帰り道
雨が降っていたのを覚えてる
かなり強い雨で
まるで嵐のようだった
学校に置いてあった折り畳み傘をさして
長靴をはいてくれば良かったな
って後悔しながら歩いて
前からきた車の光で目が眩んで
マンホールで足滑らせて
水たまりにしりもちついちゃって
泥水に手をついて立ち上がろうとしたら
水溜まりの内側から
ぐぅっと強い力で引っ張られた。
体勢を崩して
背中も濡れた道路にダイブして
じぃわぁっ
て服に水が染み込む感覚が
ちょっとだけ楽しかった
もう一度立ち上がろうとしたら
今度は何事もなかったようにすんなり立てて
歩きだそうとしたけれど
さっき引っ張られたことを思い出して
ころばないように気を付けながら
水溜まりを覗き込んだら
わたしがいたんだ
水溜まりを通して丁度上下反対で
鏡に見ているようだった
嵐に巻き込まれたのかな
彼女の後ろに映っていた壁は水を吸い込んで腐っていて
照明はチカチカと点滅していて
窓は大きく揺れていた
まるで家のなかにも嵐が吹き荒れたみたいに
こっちを見つめる彼女の目に
ビックリする程光がなくて
その子の体から
今にも何かが吹き出しそうだったから
無意味だろうなあと思いつつも
水溜まりのそばにしゃがんで
彼女を助けたい一心で手を水溜まりに突っ込んだ
そしたら
向こうの世界の足元にも
手が現れた
は?!って思ったけど
昨日手の無駄毛を剃ろうとして間違えて切っちゃったところに絆創膏が貼ってあったから
多分
というか絶対私の手で間違いない
繋がった!
と感動している間、
向こうのわたしは
焦点の合わない目で
私の手を見つめていた
そしてふと私の後ろに目をやり、
その光の無い目を大きく見開いた
『あらし』
そう聞こえた気がした
私は手を差し伸べるように
掌を彼女に見せた
彼女はしばらく私の手を見つめて
意を決したように
そっと私の手に触れた
その途端
向こうの世界で起きたであろう嵐がぴたりと止んで、向こうの世界の家がガラガラと崩れ始めた
『たすけて』
声が響いた
今だと思って
彼女の手を半ば強引に掴んで
水溜まりから引き上げるように引っ張った
そしたら彼女の体が乗り出すように水溜まりから出て来て、私の上に覆い被さった
彼女の瞳が
心底驚いたように揺れていた
しばらくの間
お互い思考停止状態で見つめあっていた
そしたらなんだか急におかしくなって
私は吹き出した
そして
まだ困惑している彼女に声をかけた
「ねえ、大丈夫だった?」
彼女はしばらく黙ってから
「いまは」
と呟いた
「そっか!」
私は笑いながら彼女の手を引っ張った。
「そういえば家壊れちゃってたね、
もし良ければだけど、私の家来る?」
「うん、!」
彼女は顔を少しだけ上げて頷いた
彼女の暗い瞳を見てふと思った。
彼女はきっと
今まで晴れというものを見たことがない
明日、もし晴れなら
一緒に日の光を浴びよう
そう心のなかで決めて彼女のほうを振り向いた
「私嵐っていうの。よろしくね!」
一緒に狭い折り畳み傘に入りながら
そう言った
彼女が少しだけ、
微笑んだ気がした。
2024/8/2(金)
お題「明日、もし晴れたら」
8/1/2024, 12:58:12 PM