酸素不足

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『蝶よ花よ』


「私のどこが悪かったの?」
「全部だよ」

眉を八の字にして、悲しそうに私に縋る彼女。
本当に腹が立つ。

「あなたといると、惨めな気持ちになる」
「どうして?私たち、ずっと一緒にいたじゃない。どうして、今さらそんなこと……」
「今さら?あなたにとっては、今さらなんだろうけど、私にとっては今さらなんかじゃない」

私の気持ちなんて少しも考えないで、これからもずっと一緒に居たいだなんて思っていたのだろう。
本当に、馬鹿な女。

「ねえ、冗談だよね?私を驚かせたかっただけでしょ?」
「冗談で人は殺さない」
「いや……、いやよ!私、何もしてない……!」

彼女には、私に殺されるようなことをした心当たりが無いようだ。
本当に、本当に、心の底からこの女が憎い。

「蝶よ花よと大事にされてきたあなたには、私の気持ちは一生分からないよ」
「待って、待って!ごめんなさい!私が悪かったなら謝るから!」

必死な彼女の言葉なんか聞かずに、その口にナイフを突き入れた。


あんなに可愛がられて大切に育てられた人間は、ただの肉の塊になった。

どんなに可憐だろうと、どんなに綺麗だろうと、その生命が尽きてしまえばそれまで。
美しさの欠片も無くなってしまう。

蝶も花も、そして、人間も――。

8/8/2024, 12:54:02 PM