夢で見た話

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午後の陽射しが校舎を撫でてゆく。
部活動に励む生徒たちの掛け声や、教室に残ってお喋りに興じる女生徒たちの声がさざめいて流れていく。

昨日、かつての学友から電話があった。彼の息子が、この学校へ進学が決まったそうだ。
数年前、家に招かれ初めて合った時、穴が空くほど私の顔を見つめながら、懸命に話しかけてきた男の子。
今生で出会うよりずっと以前から変わらない、生真面目で礼儀正しく、頑固な性質(たち)を見せられて、くらりと目眩がしたものだ。

『あの子が学校に来るんですか?』

電話を切ってすぐに委細を話すと、妻の声は華やいだ。嬉しいのだろう。私だって、それは嬉しい。心から。しかし…
戸惑う気持ちを拭い切れない。
再び縁を繋ぐことは、果たして、あれにとって良いことだろうか?ただひたすらに、一途に、誰かに身を尽くすような人生を繰り返させる羽目になるとしたら?
その夜、不安を吐露する私の声を、妻は静かに聞いていてくれた。

開け放った教室で動画を撮っている男子生徒たちへ向けて、立てた親指を背後へ振る。 " は、や、く、か、え、れ "
舌を出しながら教室を出て行く彼らから、罪のない忍び笑いが漏れていた。
あれはもう、彼らと大差ない身体つきになったろう。そう思うとふと、あの夜の妻の言葉が思い出された。

『……良いじゃないですか。あの子の決めたことならば。』

互いの肩書が少し変わっただけで、大切な事は変わりません、と笑う妻の顔は眩しかった。
……そうか。そうだな。お前の言う通りだよ。
あれは元々、一度決めたら梃子でも動かない男だった。
ふっと息が漏れる。憂いの去った空は、黄昏に燃えていた。


【放課後】

10/12/2023, 4:13:53 PM